32 ドライブデート
大人だからこその特権
「にしても、遥香さんマニュアル車が異様に似合いますね」
「そうか?」
そんなことを言いつつ、スムーズにギアチェンジをする先生。オートマが普及している今時、こんなにマニュアルでの運転が上手い人はなかなかいないのではないだろうかと思いつつ俺は助手席でそれを眺めている。
ちなみに千鶴ちゃんは後ろでチャイルドシートに大人しく座ってビデオを見ている。後ろにもモニターがあるので一体いくらくらいするのか気になるが怖くて聞けないので俺は別のことを聞くとこにする。
「それで・・・我々はどこに向かってるのですか?」
「んーまあ、少しだけ遠出だよ」
「そう言って高速に乗ってからかれこれ1時間経ってるんですが?」
田舎とはいえ車で高速に乗るなんて年に1、2回しかない俺としては父親以外の運転でこうして遠出するのは初めてなので、楽しみ半分、不安半分の気持ちなのだが、そんな俺に先生は笑いながら言った。
「たまの休みに近場で家族サービスなんてナンセンスだろ?」
「俺は別に気にしませんが・・・」
「ちーちゃんのためだよ。それに大人なりの楽しみを今のうちにお前に教えておこうと思ってな」
「まあ、確かに遥香さんの運転見てると楽しいですけど」
そう言うと先生は少しだけ苦笑して言った。
「そこを楽しむか。なら免許はマニュアルで取れよな」
「もとよりそのつもりですが、取っても遥香さんが運転するなら使うかわかりませんね」
「ま、私の車で練習するか、卒業祝いに車買ってやってもいいから安心しろ」
「さらっと金持ち発言やめてください。それにそんなことにお金使わなくていいですよ。もっと千鶴ちゃんとかのためにそのお金は使ってください」
確かに車があれば楽だけど今のこのご時勢二台も車持つとそれなりに維持費なり、車検代なりかかるので普段使わないなら一台でも十分だろう。まあ、田舎だからできれば持っておきたいけど、俺は基本的に卒業したら家事専門になるだろうし、先生も今の学校はそこまで距離ないから車必要ないし、千鶴ちゃんの保育園もわりと近いから問題ないので、結論としては一台で十分だろう。
本当に必要になれば俺の貯金で軽自動車買えばいいしね。男ならもっといいのを欲したいところだけど、俺としては最低限運転できれば問題ないのだ。
先生は俺の言葉に少しだけ嬉しそうな表情をしてからぼそりと呟いた。
「・・・お前のそういうところが本当に私好みすぎるんだよ」
雑音がうるさいはずなのにその言葉がやけにクリアに聞こえてきて俺はしばらくどう反応していいか悩んでからーーー聞かなかったことにすることにした。なんて言えばいいかわからなかったからだ。