275.5 心からそう思う
「さて・・・どうするか」
仕事を早めに切り上げて何件か店を回りながら遥香は悩んでしまう。悩んでいるのはもちろん健斗の誕生日プレゼント。何をあげても喜びそうというのが逆に難しいものだと思う。
(あいつ物欲皆無だからなぁ・・・)
和也の頃は、求めるままにプレゼントしていたような気はするが、健斗の場合はそうはいけない。こんなに色々考えてプレゼント探しするのは初めてかもしれないと思っていると、見覚えある生徒に出くわした。
「中条」
「・・・黒羽先生っすか。ども」
中条雅人。健斗の親友の彼は待ち合わせでもしてるのか、珍しく1人のようで何やらスマホを弄りながら言った。
「健斗のプレゼント探しっすか?」
「・・・まあな。お前は待ち合わせでもしてるのか?」
「まあ、そうっすね」
そこで会話が止まる。まあ、そもそも時間的にも咎めるほど遅い時間ではないし、特に用事があるわけでもないのでいいだろうと思い、遥香はプレゼント探しに戻ろうとするが、その前に雅人は言った。
「ま、なんつうか、アイツのことよろしくお願いします」
「・・・どうしたんだ突然」
「いや、別に俺がどうこう言える立場じゃないのは知ってますが、まあ、なんつうか、一応俺はアイツの親友なんでわかるんです。アイツが本気だってことが」
スマホを弄りながらも真剣な口調に遥香は頷いて言った。
「当たり前だ。私も本気だからな」
「俺は昔、アイツに助けて貰いました。いや、ずっと助けて貰ってたんですよ。だから、アイツには幸せになって欲しい。親友としてそう思うんですよ」
「・・・健斗はいい親友を持ったんだな」
「話はそれだけです。引き止めてすいませんでした」
そう言ってから黙った雅人に遥香も何も言わずにその場を後にした。あまり長居しても互いにメリットはない。遥香としても健斗以外の男と一緒に長いこと居たくはないのだ。
「さてさて、とはいえどうしたものか・・・」
何件も店を回ってもなかなか見つからないものだ。プレゼント探しは難航して、しばらく見て回ってから、ようやく納得のいくものを見つけたので、ラッピングして貰ってから帰路につく。
吐く息が白く見えるくらい寒くなってきたのを確認してから、家に帰ると温かいご飯と笑顔で待っていてくれる人がいるんだと思うと自然と嬉しくなってくる。
左手にはめてある指輪の存在が、前より現実感を出しており、心底早く帰ろうと思えるのだった。まあ、ペアリングというのもその要因になってるのだが。
(ゲンキンだよなぁ)
そう自分でも思いながら笑みを浮かべるのだった。




