273 初デート終了
終了
「ありがとうな健斗」
帰りの車内で、上機嫌で運転しながらそんなことを言う先生。その言葉に俺は苦笑気味に答えた。
「お礼を言われるようなことはしてませんよ。俺も楽しかったですしね」
「そう言うとは思ってたよ。ただな、こんな風に好きな人と2人きりでデートするのは久しぶり・・・いや、下手したら初めてかもしれないからな」
「和也さんともデートはしてたんですよね?」
「うーん・・・実はあんまりしてないんだよな。一緒に出掛けても飯食ってアイツの行きたいところに付き合ってただけだしな」
なんともらしい言葉だが、まあ、察しはついた。
「というか、お前的には嫉妬とかはないのか?」
「和也さんに対してですか?もちろんありますよ」
「のわりには、サラリと聞いてくるが・・・」
複雑そうな表情の先生。うーん、そう見えてしまっているのか。まあ、折角のデートだしそれならそれでちゃんと伝えないとな。
「和也さんに対して嫉妬心はもちろんあります。でも、そんなの関係ないくらいに俺は遥香さんのことが大好きなんです。貴方の全てが愛おしいんです」
まあ、勿論俺だって独占欲というものがあるし、先生の全てが欲しいとも思う。だからこそ、過去の全てを受け入れてそれらを越えるくらいに愛そうと決めているからだ。
千鶴ちゃんだって、俺にとっては大切な家族。可愛い娘だ。血の繋がりなんてなくたって、俺は千鶴ちゃんのことを娘として愛している。まあ、結局のところ、俺は単純に2人のことが大好きすぎるのだろう。
「・・・なんだか、お前の方が大人だな。些細なことで嫉妬してる自分が子供に思えるよ」
「そんな遥香さんが俺は好きなんです。だから素直な気持ちをそのまま伝えてください。ちゃんと答えますから」
「あーもう・・・どうして、お前はそんなにカッコいいんだよ・・・我慢出来なくなるだろうが・・・」
しばらく何やら葛藤している様子だった先生は、しばらくしてから、いつも通りに戻って言った。
「なあ、健斗。貰ってばかりで悪いが・・・最後にもう一つだけ私にくれないか?」
「なんですか?」
そう聞くのと同時に家の駐車場に到着したのだが、車を停めてから、先生は少ししてから言った。
「デートの最後の記念に・・・私のことを呼び捨てにして、キスしてくれないか?」
予想外の言葉に驚きつつも、俺はそれに頷いて言った。
「わかりました。遥香」
「ぅん・・・」
ゆっくりとキスを交わす。そういえばこうしてキスするのは久しぶりかもしれない。しかも呼び捨て。なんだか呼び捨ては落ち着かないというか、なんとなく俺が強気になりそうなので、しばらくは無理だが・・・まあ、結婚したらそのうち呼べたら呼んでみようと思いながら、デートの最後の思い出を作るのだった。




