262 ライブ本番
ライブダイジェスト
「なぁ、さっきクラスに来てた美人さん、健斗の親戚か何かか?」
いよいよライブ本番。準備で控えにいると、そんなことを聞いてくる吉崎に俺は生返事で答えた。
「まあ、そうかな」
「なんか、えらく可愛い女の子いたし、お前妹なんていたか?」
「まあね」
「にしても、偉く可愛いよなぁ。ロリコンに目覚める奴ってああいう女の子見てなるんだろうなぁ」
思わずギロリと睨んでしまってから怯える吉崎に言った。
「というか、本番直前にそういうくだらない話するか普通?」
「いやいや、結構大切なことだぞ?というか、お前に睨まれたの何気に初めてかもな・・・」
「けんちゃんは滅多に怒らないでござるからな」
キーボードの感触を確かめていた斉藤がそう答えてから雅人が言った。
「ほら、始まるぞ。移動だ」
「はいよ」
その言葉に頷いてからステージに立つ。こんなに大勢の前で演奏するのは初めてなので緊張しないと言ったら嘘になるが、すぐにその緊張は消える。
ステージからほど近い位置にいる瑠美さんと千鶴ちゃん。そして後ろの方でひっそりとしている先生の姿を見たらカッコ悪い姿を見せたくなくなったのだ。
「んじゃ、いくぞ」
その雅人の言葉に頷いてから、吉崎はスティックでリズムを取ってから、合図をして、演奏は始まる。
1曲目、歌うのは家族の愛を歌う曲。これは俺が2人のために歌いたかったのだ。続く2曲目は、熱いラブソング。これは先生への俺の愛を込めた想いだ。
他の人がいようが関係ない。俺は2人と・・・そして、愛してる先生への公開告白として必死で想いを伝える。その想いが伝わったのか、先生が少しだけ顔を赤らめているように見えたので万々歳だろう。
曲を聴いてくれている、千鶴ちゃんも俺の姿に目を輝かせているように見えるが、どっちみちそれは後でわかること。
そうして連続で2曲目歌い終えると、観客からの温かい拍手と・・・雅人を呼ぶ女子の黄色い声援が聞こえてきたので、思わず苦笑してしまう。
「相変わらず人気だな」
「お前もな」
互いに思わずハイタッチをしてしまうのだから、ライブでおかしなテンションになっているのだろう。
「届いたかな」
「届いただろ。少なくともお前の熱い気持ちは伝わってるはずだ」
「・・・ありがとう」
親友の言葉に微笑んでから、マイクで軽くバンドの紹介をして3曲目を歌ってから、俺たちのバンドは幕を閉じた。多分人生で最後のバンド活動、そこそこ楽しかったと思いながら、後で雅人を囲む女子の波に巻き込まれそうになるのだった。




