240.5 新しい友達
「ちづるちゃんはいるかしら!」
他の友達が外に出て遊んでいる中、部屋で本を読んでいた千鶴は、突然名前を呼ばれて本から顔を上げると、見知らぬツインテールの女の子が扉の前に立っていた。
「だれ?」
「な、わたくしですわ!ゆりぐみの『くいーん』のももせれなですわ!」
全く知らないなぁと思いながらキョトンとする千鶴に構わずにその女の子は言った。
「まえのうんどうかいでは、さいごにちづるちゃんにまけたけど、つぎはまけませんわ!」
そう言われてから、千鶴はその女の子が最後のリレーで、自分が抜いた相手だと思い出す。その女の子・・・ゆり組の百瀬レナは、ズカズカと千鶴の元に歩いてくると、読んでいた本を取り上げて言った。
「ちづるちゃん!しょうぶですわ!」
「えっと、なにするの?」
「わたくしとどちらがしんの『くいーん』かしょうぶですわ!」
そもそもクイーンが何かわからない千鶴は、少し考えてから首を横にふって言った。
「もうすこしで、おにいちゃんくるからむり」
「おにいちゃん?あのひとちづるちゃんのおにいちゃんですの?」
「うん!せかいいちかっこいいおにいちゃんだよ♪」
キラキラした瞳を向けてくる千鶴にレナは少しだけ戸惑ってから、なんとか持ち直して言った。
「と、とにかくしょうぶですわ!」
「でも、ちーはあんまりいたいのはいやなの」
しゅんとしながらそう言う千鶴にレナは少しだけ慌てたように言った。
「い、いたいことはなにもしませんわ!おやくそくしますわ!」
「・・・ほんと?」
「ええ、ほんとですわ!」
「そっか、えへへ。ちー、れなちゃんとなかよくできるのかな?」
「な、なかよくって・・・」
何やら焦ったように動揺するレナに構わずに千鶴は続けた。
「れなちゃんが、ちーのおともだちになってくれるなら、いっしょにごほんよみたいなぁ」
「じ、じゃあ、どっちがいろいろしってるかでしょうぶですわ!」
「うん。まけないよ♪」
そう言いながら2人で並んで本を読み始める千鶴とレナ。その様子を見て先生達や他の生徒が微笑ましそうにしているのは、それほど2人が楽しそうに肩をよせあって本を読んでいたからだろう。
実際には健斗に色々と教わってる千鶴がレナに読み聞かせをしている図にしかなってないのだが、本人達はそんなことには気づきもせずにお互いに笑いながら本を読むのだった。
それが、千鶴の生涯の親友の1人・・・百瀬レナとの最初の思い出であり、ファーストコンタクトであったことを、この時の2人は知る由もなかったのだった。




