231 朝から相談
相談
「どうかしたの?雅人」
翌日、色々と準備をしないといけないと思いながら登校すると、何故か雅人に連れ出される俺。人気のない場所まで来ると雅人は珍しく少しだけ迷ったような表情をしてから言った。
「一応報告はしておこうと思ってな。今朝から黒羽に婚約者がいるって話が、密かに広まってる」
「・・・それはまた、大変だねぇ」
「相手まではバレてないようだし、おそらく問題はないが・・・念の為知らせておこうと思ってな」
どこからそんな話が出たのだろうかと、考えてから首を振る。いや、恐かれ早かれこういう事態は予期していた。何より、これで悪い虫が減るならプラスだろう。まあ、バレた時のリスクは増えるが、学校ではほとんど接していない上に、婚約者に生徒が含まれるとは想像しないだろう。
「ま、今のところお前には実害はなさそうだが、一応気をつけた方がいいだろう」
「わざわざありがとう」
「いいさ、知っちまったら教えるしかないだろう。斉藤も俺も漏らすことはないし、昨日の黒羽の様子とお前からして、バレることはないだろうが・・・」
昨日の先生の様子?
「昨日はどうだったの?」
「問題なくいつも通りの黒羽だったよ。まあ、時折お前の机を見たり、外に視線を向けたりしていたが、俺以外には気づいてないだろうな」
その観察眼が怖いが、外向けの先生の顔ならバレることはほとんどないだろう。問題があるとすれば俺がやらかさないようにしないとな。
「うん、ありがとう雅人」
「そういえば、昨日は楽しめたのか?」
「お陰様で。充実した一日だったよ」
受験生なのに、何やってるんだと言われそうだが仕方ない。勉強より、千鶴ちゃんの運動会の方が大事なのだ。一応、昨日の範囲は斉藤に教えて貰うから、問題ないだろう。
何故斉藤なのかといえば、吉崎は字が汚いしあれなので論外。雅人はそもそもノートを取らなくても暗記しているのでやってるフリをしているからだ。天才とは恐ろしいものだが。
「ま、ならいいさ。にしてもそれがババアと薫にバレなくて良かったな。聞いてたら多分アイツら行ってたぞ」
「うーん、出来れば来年以降にして欲しいかな・・・」
「ま、こないだのカラオケの1件で少し満足したみたいだから、大丈夫かもしれないがな」
お世話になっているが、隠し事にも協力して貰わないといけない。俺にとってあの頃祖母以外に貴重な頼れる人と、仲良しの妹のような存在。いつかきちんと恩返しをしたいものだ。
そんな話をしながら、俺はますますこの関係を、卒業まで守ろうと密かに誓うのだった。絶対に守ってみせるぞ。




