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227 リレーと運動会の終わり

頑張れちーちゃん

運動会も次でいよいよラスト。千鶴ちゃんの赤組が優勢のままリレーへと繋がるわけだが、千鶴ちゃんは女の子のアンカー。つまりもっとも重要なポジションにいるのだ。


「それじゃあ、位置について。よーい」


パンと、その合図で最初の選手が走り出す。この年頃の女の子でも結構速いと思ったが、実のところ結果はあまり芳しくない。というのも、最初にスタートした千鶴ちゃんの組は現在最下位。


そしてその差は後の選手にも影響を及ぼして、かなり差をつけられた状態で、バトンは千鶴ちゃんに渡る。


「ちづるちゃん!」


バトンを受け取ってから千鶴ちゃんも懸命に走るが、最初にかなりの差をつけられたのでいくらなんでも辛すぎる。千鶴ちゃんの顔が遠目からでも見て取れたので俺はこの時だけは全てを忘れて叫んでいた。


「諦めるな!頑張れ千鶴ちゃん!」

「ーーー!」


そのエールが伝わったのだろう。一瞬こちらに視線を寄越してから千鶴ちゃんは一気にスピードをあげる。徐々に差を詰めてから、やがて最後尾の選手を抜いて最下位は免れる。だが、そこで終わりではなかった。


1人、また1人と追い抜いてついには先頭の選手に追いついて並んで最後の直線に入る。明らかに無理をしている千鶴ちゃんの表情は苦痛に歪んでいた。本音は今すぐに止めさせたい。


そんなに頑張らなくてもいいと言って止めたい気持ちを懸命に押し殺してからエールを送る。可愛い子供が自分の力で頑張っているんだ。親としてこれを応援しないのはあってはならない。


「いけー!千鶴ちゃん!」


そのエールが届いたかはわからない。それでも、なんとなく千鶴ちゃんが辛そうながらも笑ったように見えたと同時に、ゴールテープは切られた。


そして1位になったのはーーー


『おめでとうございます!1位は赤組!』


おぉ、とざわめく保護者席で俺は息を整えている千鶴ちゃんと視線があう。すると笑顔でVサインを送ってる娘に俺は柄にもなく少しだけ涙ぐんでしまいそうになりながら微笑んだ。


初めての運動会、そして初めて手に入れた娘の勝利。これに立ち会えたことに感謝しながら、運動会は静かに幕を下ろすのだった。長いようで、実はまだ授業すら終わってない時間。


それでも、なんだか娘の成長に立ち会えたようで、俺は満足だ。辛かっただろうに、懸命に走って結果を出した千鶴ちゃん。後で目一杯褒めてあげよう。


なんでも言うことを聞いてあげて労わなければ。やり過ぎでもいい。己の力で勝利を勝ち取った娘に俺は心底愛しく思いながら最後までビデオに記録を残すのだった。





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