222 お昼の前に
お昼休憩
「おにいちゃーん!」
お昼になってから、真っ先に俺の元にやってきた千鶴ちゃん。嬉しそうに抱きついてきたのでそれを抱きとめると、千鶴ちゃんは顔を輝かせて聞いてきた。
「ねぇねえ、どうだった?」
「うん。凄く頑張ってたね。偉いよ千鶴ちゃん」
「えへへ・・・」
「あらあら、相変わらず仲良しねぇ」
そんなやり取りをしていると、そう声をかけられる。見ればそこには千鶴ちゃんの友達の凛ちゃんのお母さんである的場律子さんがいたので千鶴ちゃんを抱っこしたまま俺は挨拶をする。
「こんにちは。今日は旦那さんは・・・」
「ええ、もちろん来れなかったわ。仕事が忙しいんでしょうねぇ。黒羽さんもお仕事かしら?」
「ええ、大事な時期なので仕方ないですよ」
「健斗くんもじゃないの?確か高3よね?」
覚えていたことに驚きながらも、俺は頷いて言った。
「俺は一応内定貰ってるので大丈夫です」
「あら、内定ってことは就職かしら?こんなに早くに取れるなんてすごいわねぇ・・・ああ、ごめんなさい。先にこれを言うべきだったわね。おめでとう」
「ありがとうございます」
まあ、就職といっても永久就職なんだけどね。これをこれから言い続けるのだから、色々気をつけないとな。
「本当はお昼ご一緒したいけど・・・小さなお姫様のご機嫌をこれ以上損ねたくはないから、今回は遠慮するわね」
「あぁ・・・助かります」
「ええ、じゃあお互い可愛い家族の応援しましょう」
そう言ってからその場から立ち去って自分のいた場所まで戻るのを確認してから俺は抱っこしたまま少しだけ不機嫌になってる千鶴ちゃんに微笑んで言った。
「ごめんね、千鶴ちゃん。話は終わったからお昼にしようか」
「・・・うん」
傍目からはそこまで怒ってるようには見えないが、どちらかといえばなんとなく不貞腐れてる感じだ。保護者同士で話して退屈させたのかと思っていると、千鶴ちゃんはポツリと言った。
「・・・おにいちゃんは、ちーとままのだもん。だれにもわたさないもん」
そう言いながら、俺に強く抱きついてくる千鶴ちゃん。・・・えっと、これってもしかして千鶴ちゃんの独占欲なのだろうか?遥香さんと話してても気にしないから、家族以外が俺と仲良くするのはあまり千鶴ちゃん的には嬉しくないのだろう。
俺は、千鶴ちゃんを抱っこしたままあやすように言った。
「大丈夫。俺は千鶴ちゃんと千鶴ちゃんのママの前から、絶対いなくならないから」
「・・・うん」
ポンポンと何度か落ち着かせるように抱きしめながら、俺は内心反省するのだった。もっと2人の気持ちを理解出来るようにならないとなぁ。うん、これは完全に俺のせいだ。そう心に留めてから、もう少し他の保護者と距離を置きつつそれなりに仲良しにして、千鶴ちゃんや先生が心配しないよう頑張ろう。




