22 父親の懸念
お父さん過保護・・・
「あら?健斗早いわね」
朝の5時、洗面所に向かう途中で仕事帰りの父さんと鉢合わせた。化粧をして仕事着を着ている父さんは一見すると女にしか見えないがもはや見慣れている俺は特に気にせずに言った。
「父さんおかえり。朝ごはん食べる?」
「私的体内時計だと夕飯だけど・・・そうね、せっかく健斗が作るならいただくわ」
「うん、じゃあすぐに準備するね」
「健斗」
そう言ってから台所に向かおうとすると父さんに呼び止められる。そちらを向くと何やら心配そうな表情をしながら父さんは言った。
「あなた最近こんな時間に起きてるの?」
「んーまあ、ご飯の準備があるしね」
「夜はちゃんと寝てるの?」
「寝てるよ。父さんこそ不規則な生活なんだから体調に気をつけてね」
「私は長年の生活で慣れてるから大丈夫よ。でもあなたは・・・」
「俺だって早起きは得意だよ。何年海斗と父さんのご飯作ってると思ってるの」
そう言うと父さんはため息をついて言った。
「・・・苦労をかけてるわね」
「気にしないでいいよ。俺は好きでやってるんだから」
「だとしても私はあなたに家のことを丸投げしていたから。海斗の・・・弟の面倒と家事を全部あなたに任せてしまったから」
「突然どうしたの?」
「いえ、なんでもないわ。ただなんとなく娘が嫁ぐのってこういう気分なのかと思っただけよ」
「俺、男なんだけどね」
なんで嫁入り前のムードを漂わせているのか疑問になっていると父さんは「まあ、冗談はともかく・・・」と少しだけ真剣な表情で言った。
「無理はしちゃダメよ。辛かったら辛いって言いなさい」
「わかってる」
「本当に?あなた昔からいつも我慢しちゃうからお父さん心配なのよ。ほら覚えてる?あなた小さい頃にお祖母ちゃんの自転車の後ろに乗せてもらった時に自転車の車輪に足巻き込まれて大怪我したときも絶対に泣かないで凄く我慢してたでしょ?」
「いつの話をしてるの・・・」
確かにめちゃくちゃ痛かったし、足が血だらけになったけど今は死んだお祖母ちゃんを心配させないために多少無理して笑ったけど・・・そんな昔の話を持ち出す必要はないだろうと思い半眼で答えようとしたが、父さんの真剣な表情を見てため息混じりに言った。
「そこまで無理はしないよ。俺は好きでこうして自宅と先生の家の家事をしてるだけだからね」
「そう・・・わかったわ。とにかく無理はしないこと。あと美味しいご飯お願いね」
「はいはい」
その言葉に俺は台所に向かって歩きだす。心配性な父さんの言葉だが俺を気遣ってのことなので少しだけ嬉しくなったのは秘密だ。