197 朝比奈夫との交流
お風呂ー
「ふぅ・・・」
お湯に浸かると思わずそんな声が出る。先生と千鶴ちゃんがお風呂に行ったので暇になり、俺もこうして旅館の大浴場に来たのだが、他の客がいないので思わずそんな風にのんびりとしてしまう。
「あー・・・なんか、やっぱり一人で入るのは落ち着かないなぁ」
前までは当たり前のことだったのに、最近はそれが寂しいと感じてしまう。千鶴ちゃんを入れることに慣れてきたからか、なんとなく一人の時間が寂しく感じてしまう。それだけ先生や千鶴ちゃんに依存してしまっているだろうと思うと思わず苦笑してしまう。
「あれ?」
「ん?」
何やら後ろから人の気配とそんな声が聞こえてきたので振り返ると、そこにはさっきいた先生の友達の朝比奈さんの旦那さんがいた。
「やぁ、君は確かさっきの・・・奈乃葉の友達の旦那さんかな?」
「ええ、そうです。先程は挨拶もなしにすみません。巽健斗といいます」
「僕は朝比奈久木だよ。健斗くんでいいかな?年下のようだし。あ、隣いいかな?」
「ええ。構いませんよ」
ありがとうと言ってから隣に入ってきた朝比奈さんの旦那さん。気持ち良さそうにため息をついてから朝比奈さんの旦那さんは俺に聞いてきた。
「このタイミングで会うなんてね。もしかして君も断られた口かな?」
「断られた?」
「混浴しようと言ったんだが奈乃葉にすげなく断られてね。まあ、たまの休みくらいはのんびりしたいのかもね」
・・・言えない。既に混浴した後だとは。そんなことを思いながら俺は聞いた。
「久木さんは、お仕事は何をされてるのですか?」
「僕かい?なんてことない販売の仕事だよ。健斗くんは何の仕事をしてるだい?」
「主夫です」
「ん?」
「主夫をしてます」
首を傾げる久木さんに自信満々に言うと久木さんは不思議そうな表情を浮かべて言った。
「家事は奥さんの仕事じゃないのかな?」
「違います。我が家の家事は俺の仕事です。妻にはやりたい仕事を自由にさせたいので」
「そうか・・・そんな家庭もあるんだね」
ふむふむと、納得する久木さん。思いの外すんなり受け入れたのでちょっとだけ驚いていると、久木さんは苦笑しながら言った。
「そういう家庭があるとは思わなかっただけだよ。それよりもせっかく奈乃葉の友人の旦那さんと知り合えたんだ。出来れば仲良くしたいんだよ。僕はプライベートでは知り合いが少ないからね」
そこからしばらく二人で色々話した・・・というか、久木さんの愚痴や相談に乗っただけだが、そうして話してから俺達はそれなりに仲良くなって、何故かLINEの交換までしていたのだった。まあ、知り合いか増えたのはいいことかな?




