192 旅館でのんびり
のんびりまったり
「これはまた・・・随分と広いですね」
広い和室に、家族用の個室の露天風呂までついてる豪華仕様。別に温泉もあるけど、とにかく内々でゆっくりしやすい仕様になっていて、これも千鶴ちゃんの強運の賜物なのだろうか?
「夕食も豪華らしいな。調べたけど結構人気の旅館らしいから普通に予約取るのは難しいだろうな」
「やっぱりそうですか。千鶴ちゃんのお陰ですね」
「ちーの?ちーえらい?」
そう首を傾げる千鶴ちゃんの頭を優しく撫でてから俺は言った。
「うん。千鶴ちゃんのお陰でここに来れたよ。ありがとう」
「えへへ・・・」
嬉しそうに笑みを浮かべる千鶴ちゃん。にしても個室の露天風呂か・・・
「健斗、もしかして思い出してるのか?」
「・・・何のことでしょう」
「そうか、ならいいが」
そうして笑う先生。修学旅行の時の混浴をどうしても思い出してしまうのだ。それを見透かしてる先生に何かを言うまえに千鶴ちゃんが聞いてきた。
「おにいちゃん。どうしておへやにおふろあるの?おっきなおふろもあるんだよね?」
「えっとね、家族でお風呂に入るのは悪いことじゃないんだけど、少しだけ恥ずかしいからそういう人達のためにこうして別にお風呂があるんだよ」
本当はカップルなどのためとは言えなかった。それを今レクチャーすることに意味はないからだ。そのうち年頃になれば自分から知ってしまうだろうしね。そういう時にこそ、俺は親として色々教えなくてはならないだろう。
「そうなんだー、じゃあ、きょうはままとおにいちゃんといっしょにおふろはいれるの?」
「えっと、そうだね。ママが良ければだけど・・・」
「何言ってるんだ。入るに決まってるだろ?」
最初から俺に選択肢はなかったようだ。
「わーい!やったー♪」
「嬉しそうだなちーちゃん」
「うん!ままとおにいちゃんといっしょうれしい」
しかし、こうして無邪気に微笑む千鶴ちゃんを前にして拒否する選択肢はないだろう。先生とお風呂というのはどうしても意識してしまうが、それでもなんとか耐えなくては。俺にだってそれなりに欲はあるが、二人の信頼を裏切るような真似はしたくない。
何より先生の立場と想いを無視して欲望のままに襲うのは絶対にしたくない。何を言われても俺は俺のしたいようにする。卒業までの我慢だ。
それまでに千鶴ちゃんに俺を父親として認めさせるのと、遥香さんの心にもっと寄り添えるようにならないといけない。二人を大切にしながら俺は二人と笑って過ごせる未来を目指す。
そんなことを考えながらとりあえず混浴という事実から少しだけ目をそらすのだった。




