190 いつも通りに
晩酌
「そうか・・・ちーちゃんがそんなことを」
今日のことを先生に話すと申し訳なさそうな表情になりながら先生は言った。
「やっぱり、私はもう少し家庭を見ないといけないな」
「それは俺の仕事ですよ。それに千鶴ちゃんは賢い子ですから、遥香さんが忙しいというのはよく分かってますよ」
「しかし・・・」
「遥香さんが家庭に目を向けてくれるのは確かに嬉しいですが、無理して遥香さんが倒れたら悲しむのは俺と千鶴ちゃんの二人なんですからね」
そう言うと先生は少しだけ苦笑しながら言った。
「そうだな。すまんな、苦労かけて」
「好きな人のために何かをするのが苦労なわけないですよ」
「そうか・・・そうかもな」
身に覚えのあることなのか頷く先生に俺はふと、思い出したように言った。
「そういえば、最近前より朝俺を抱きしめてる回数増えましたね」
「そうか?」
「はい、というか何故か覚えのない痣があるんですよね。まるでキスマークみたいな」
そういうとどきりとしたように小さく反応する先生に俺は確信を持って言った。
「あの、もしかして俺が寝てるときに何かしてます?」
「・・・してないぞ」
「俺の目を見て言えますか?」
しばらく無言の圧力をかけると先生はやがて観念したようにポツリと言った。
「・・・少しだけお前が寝てる間に身体を借りてるだけだ」
「具体的には?」
「ちょっと、お前の身体を触ったり腕枕を楽しんだり、あとはその・・・少しキスしたりしてるだけだ」
思ったより色々されてて驚いていると先生は少しだけ申し訳なさそうにこちらを見ながら聞いてきた。
「・・・ダメだったか?」
「あ、いえ、それは全然ダメじゃないですが・・・それなら起きてる時にすればいいんじゃ?」
「仕方ないだろ・・・最近お前を見てると無性に襲いたくなるんだから」
後半聞こえなかったが、なんとなく悪い気はしないので俺は笑って言った。
「なら、今甘えますか?」
ポンポンと膝枕を勧めると先生はおずおずとこちらにやってきてから俺の膝に頭を乗せると嬉しそうに言った。
「いいものだな・・・やっぱりお前の膝は安心する」
「そうなんですか?千鶴ちゃんは何故か耳掃除してると寝ちゃうんですよね」
「・・・ちーちゃんにはそんなこともしてるのか?」
「ええ。遥香さんもやりますか?」
「・・・頼む」
そうしてこの日から俺は先生の耳掃除もすることになるのだが、だいたい二人ともそれをすると眠そうになるか寝てしまうことがはっきりとわかった。親子で似ているので微笑ましいが、膝が痺れないようにもう少し長時間の正座を出来るようにしようと誓うのだった。




