186.5 トキメキと依存
「ぁああ・・・うぅ・・・」
「はるにゃん、いつまでもうるさいよ。千鶴ちゃん寝てるんだから静かにしないと」
「・・・わかってる。というか、勝手に部屋に来るなよ」
そう言いながら遥香はなんとかベッドから身体を起こすが、先ほどの健斗の熱烈な告白に柄にもなく悶えていたのだった。まさか自分がこんなに想われていたとは全く思っていなかったからだ。
「はるにゃん。のろけなら聞くよ?」
「なんだよ・・・和也の時は嫌がってただろ」
「いいから、ほれほれ言ってみ?」
その言葉に促されてから遥香はポツリと呟いた。
「あのな、アイツに凄く強く抱きしめられたんだ・・・」
「うんうん」
「でも、強いだけじゃなくてどこか私を思ってか優しくてな・・・」
「うんうん」
「ぅう・・・あぁ・・・なんでアイツはあんなに格好いいんだよぅ」
「うんうん、はるにゃん完全に堕ちたね」
友人の様子からそう断定する瑞穂。最初から友人のためにこうして普段言えないことを言わせて接近させようとしたら見事にハマったらしい。しかし、普段から凛々しいはずの友人がこんなに乙女な顔をしていることに瑞穂は少なからず健斗に尊敬の念を抱いていた。
(最近の子は大胆だねぇ・・・にしても、こんなになるまで何を言ったんだか)
どうしたらこの友人のことをここまで出来るのかと思っていると遥香はうわ言のように言った。
「ヤバい・・・私、健斗のこと好きすぎる・・・どうしよう・・・」
「どうするって、いいことじゃないの?」
「だってだって!結婚までそういうこと禁止って言われてるのに私我慢出来ないよ・・・」
「まあ、昔のはるにゃんなら既に妊娠しててもおかしくないね」
それだけ行動力があることを知ってるのでそう言うと遥香は首をふってから言った。
「ちーちゃんのこともあるのに、私がこんな姿を見せるわけにはいかないのに・・・」
「まあ、口調から何から乙女になってるしね」
「うぅ・・・瑞穂の馬鹿・・・私が健斗から離れられなくなったらお前のせいだぞ」
「それは自己責任でしょ?」
というより、既に依存しきっているだろうと言おうとしてやめた。やぶ蛇にはなりたくないし、何よりこういう姿の時の遥香がかなり貴重なのでバッチリと映像に残しておきたいのだ。
(ナイトくん。君には悪いけど、逃がさないからね。友人の幸せのためなら今度こそ妥協はしないから)
和也の失敗を元に徐々に健斗の外堀を埋めていく作戦を立てているとは知らずに遥香は健斗のことを考えて身悶えするのだった。唯一の安らぎはそれらを無視して眠る小さなお姫様の存在だろう。




