175.5 母娘の時間
「にしても、随分変わったものだ」
健斗が出掛けてから、久しぶりの休みに、特に何かをすることもなくまったりとしていた遥香はふと、そんなことを口にする。数ヶ月前までは、こんなにこの家で落ち着くなんてこともなかっただろうからだ。
ここには・・・いや、あの部屋には和也との過去しかないはずで、この家自体、そこまでいたいとは思わなかったはずなのに、どこかホッとしている自分がいる。
綺麗に整理された部屋に、健斗の手によって少しづつ小物などが増えて、より生活感がでるようになってきた。
(・・・今頃ちーちゃんの誕生日プレゼントの買い物か)
自分ではなく千鶴のために何かをする健斗に、嬉しくも複雑な気持ちを抱いてしまうのは仕方ないだろう。そんなことを思ってからふと、さっきから黙々とお絵描きをしている千鶴を見て、遥香は聞いた。
「ちーちゃん、何描いてるんだ?」
「えっとね、じゃーすかいてるの」
「ジャース?ポケゴンだっけか?」
アニメにはあまり詳しくないのでそう聞くと、千鶴は嬉しそうに頷いてから言った。
「おにいちゃんがかいてくれた、じゃーすみたいにじょうずになりたいの」
「健斗の?絵上手いのか?」
「うん、これ」
そうして見せられたのは、可愛い猫のイラストだった。スマホで本物を調べてから、遥香はそのクオリティの高さに思わず苦笑してしまう。
(本当にあいつ器用だなぁ・・・)
美術の成績はそこまで良くないので、おそらく千鶴のために頑張って練習したのだろう。ただでさえ少ない自分の時間をそんなことに使う健斗に、遥香は思わず笑みを浮かべて呟いた。
「本当に馬鹿だなぁ・・・」
「まま?」
「いや、なんでもないよ。いつもは健斗とは何をして過ごすんだ?」
「えっとね。いろいろだよ。いっしょにおえかきしたり、ごほんよんだり、おりがみしたり」
多才な健斗に少なからず感心してから、遥香は聞いた。
「そういえば、ちーちゃんは休みの間行きたいところはあるのか?」
「ちーはままとおにいちゃんがいっしょならどこでもいい」
「そっか」
そう言ってからお絵描きしている千鶴を遥香は抱き上げると、少しだけ重くなっている千鶴に微笑んで言った。
「じゃあ、今日はママと遊ぼうか。何かしたいことあるか?」
「えっとね。じゃあねごほんよんで」
「ああ。わかったよ」
そうして遥香は千鶴を下ろしてから千鶴が本を取ってくるのを待つが、その前に少しだけ自分の腕を見つめて苦笑してしまう。
(知らない間に、大きくなるものなんだな子供って)
健斗はいつも軽々と千鶴を抱くので、知らなかったことに苦笑しながら、遥香は子供の成長を喜ぶのだった。




