表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/813

172.5 頼れる健斗

「まま、おいしいね」

「ああ、そうだな」


花火まであと少しとなった頃。父親からの電話を受けて、少しだけ離れた健斗を待つ遥香と千鶴。久しぶりに千鶴と二人きりになったので、遥香は思わず聞いていた。


「なぁ、ちーちゃん。健斗・・・お兄ちゃんのことどう思ってる?」

「どう?」


その言葉にしばらく考えてから、千鶴は笑顔で言った。


「えっとね、いつもやさしくて、あったかくて、だいすき!」

「例えばの話だが・・・健斗がちーちゃんの父親になったらどう思う?」

「おにいちゃんがぱぱ・・・」


遥香はあまりにも踏み込み過ぎたと思い、慌てて言葉を発する前に、千鶴は微笑んで言った。


「すごくうれしい!おにいちゃんだいすきだから、ほんとうのぱぱになってほしい」

「・・・そうか。ありがとう」


たった数ヶ月でここまで自分と娘をたらしこんだ健斗に、遥香は純粋に凄いと思っていると、不意に誰かに腕を掴まれる感覚に、思わず身構える。見れば酔ったように顔を赤くしたおじさんが、遥香の腕を掴みながらうわ言のように言った。


「みつこ!さっさと帰るぞ!」


どうやら酔って勘違いをしてるらしい。千鶴はそのおじさんを完全に怖がっており、遥香はなんとかその手を離そうと力を入れる前に、ふと柔らかく抱き締められていた。


「おじさん。みつこさんならあちらにいますよ」


見れば、健斗が自分と千鶴を抱き締めていたのだった。


「おじさん、これは俺の妻です。あなたの妻はあちらにいますよ」

「ひっく・・・おう、そうか、悪いなぁ」


そう言いながら離れていくおじさんを見てから、健斗は二人に聞いた。


「大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?」

「ちーちゃんも私も大丈夫だ」

「そうですか・・・良かったぁ」


ほっとして苦笑する健斗。そんな健斗に遥香は聞いた。


「電話はいいのか?」

「嫌な予感がしたので切り上げました。すみません、怖い思いさせて。千鶴ちゃんもごめんね」

「ううん、おにいちゃんがたすけてくれたからだいじょうぶ」

「そっか。遥香さんもすみません。もっと早く戻れば良かった・・・」


抱き締められたままそんなことを言われるもので、遥香は思わず軽く赤面してしまう。まさかこんなことで自分がときめくとは思わずに、なんとか余裕の笑みを浮かべて言った。


「それよりいつまで抱き締めてるんだ?」

「あ・・・すみません」

「構わないが・・・そんなに私とちーちゃんと一緒にいたかったのか?」

「もちろんです。大切な二人ですから」


その言葉に千鶴が嬉しそうに微笑む中で、遥香はこの上なく健斗にときめいていた。先ほどからチョロすぎる自分に呆れつつも、さっきの健斗が遥香を助けてくれた姿に、自分の少女としての部分が過剰に反応したのがわかった。


(そんなのとうの昔に捨てたはずなのになぁ・・・)


断言できる。遥香は健斗のことが大好きだ。そして同時に、遥香は健斗のことを絶対に手離したくないと思うのだった。お祭りのムードもあるのだろうが、平たく言えばさらに惚れたのだった。そんな風にしていると、いつの間にか夜空に花火が咲き乱れた。健斗と千鶴がそれを嬉しそうに見つめる中で、遥香だけは健斗の横顔にみとれてしまっていたのだった。


まるで恋する少女のようにと言えば本人は否定するだろうが、事実なので仕方ない。そうして絆が深まる中で、祭りの夜は過ぎていく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ