165 遺伝らしい
遺伝
「なるほど、やっぱりちーちゃんにも遺伝していたか」
今日のことを晩酌の時間に改めて先生に報告すると頷いてそう言ったので俺は思わず聞いていた。
「ということは、遥香さんも?」
「ああ。まあな」
「ええ、うちの女の子は皆くじとか強いよー。私も学生時代はこの人の隣の席を毎回当ててたしねー」
どうやら黒羽家の遺伝らしい。お義母さんにも経験があるようなので俺はお義父さんを見ると頷いて言った。
「事実だよ。遥香も霞も、あと瑠美も皆運が良いんだ。遺伝と呼んでいいレベルでね」
「お義父さんはどうなんですか?」
「私はそこまで良くはないさ。それにしても話してなかったのかい?」
そう先生に聞くお義父さん。その言葉に遥香さんは少しだけ気まずそうに言った。
「忘れてたんだよ」
「まったく・・・すまないね、健斗くん。驚いただろう?」
「いえ、千鶴ちゃんが楽しめたようなのでいいですよ。ただ、千鶴ちゃんが当てたのに本当に俺が貰っていいものかが少し心配で・・・」
温泉旅行は皆で行けるからいいとしても、サイクロン掃除機とデジカメは本当に俺が貰っていいものなのか。千鶴ちゃんが全部俺に渡すと言ってきたのでかなり驚いてはいるが・・・やっぱり取っておいて千鶴ちゃんのために残すか、売って千鶴ちゃんの将来の貯金の足しにするべきかを悩んでいると、それを見抜いたように先生が言った。
「ちーちゃんはお前に何かプレゼントしたいと言ってたからな。受け取ってやれ」
「ですが・・・」
「お前は欲がないな。さっきの話聞いたら普通はちーちゃんを利用しようとか考えるだろ?」
「そんなのあり得ません。俺は千鶴ちゃんにそんなことをさせたくはないです。千鶴ちゃんが本当に欲しいもののためにその力を使えるようにしたいですから」
そう言うと先生は嬉しそうに微笑んで言った。
「そんなお前だからちーちゃんはプレゼントしたいって言ったんだよ」
「うふふ、やっぱりけんちゃんはいい子なのねー」
「ああ、健斗くんは真面目だな」
一斉にそう褒められて少しだけ戸惑ってからなんとか立て直して先生とお義父さんとお義母さんにそれぞれお酌して言った。
「それはそうと、明日お帰りになるのですよね?」
「ええ、そうよー。いつでも遊びにきてねー♪けんちゃんとちーちゃんなら大歓迎よー!」
「ということらしい。まあ、遠慮せず来なさい」
「ありがとうございます、お義父さん、お義母さん」
そう言ってから俺はなんとか話題を逸らすことに成功する。もっとも先生がそれを見抜いてわざと乗ってくれたので大人の凄さを知ったけどね。




