162 好きな色
色と前進
「ぬーりぬりーぬーりぬりー」
楽しそうにお絵描きをする千鶴ちゃん。この前買ってあげた色鉛筆も上手に使えてるようなので嬉しくなる。本当はクレヨンにしようかと思ったが、こちらがいいというのでそれにした。
それにしても千鶴ちゃんは絵が上手だ。まだ子供の絵とは思えないくらいにクオリティが高い。こういう器用なところは先生に似たのだろう。
「できた!おにいちゃんみてみて」
「うん。わかった」
そう言ってから俺は千鶴ちゃんが描いていた絵を見ると、それは俺と先生と千鶴ちゃんが三人揃って並んでいる絵だった。
「どうかな、どうかな?」
「うん、凄く上手だよ。流石千鶴ちゃんだね」
「えへへ・・・」
褒めながら頭を撫でると嬉しそうに微笑む千鶴ちゃん。
「あのね、ちーね、おにいちゃんとままといっしょがすきなの」
「俺もだよ。千鶴ちゃんとママと一緒にいるのが大好きだよ」
「うん!」
その言葉に嬉しそうに微笑んでから今度は別の紙に絵を描き始める千鶴ちゃん。それを見ながら俺は千鶴ちゃんに聞いた。
「千鶴ちゃんは水色が好きなんだね」
「うん、そうだよ」
「あとはピンクかな」
千鶴ちゃんはその2色を多用することが多い。先程の俺たちの絵はそうでもないが、好きなようにお絵描きするとそうなる傾向が強い。
「おにいちゃんはなんのいろがすきなの?」
「俺?俺は・・・黒か白かな」
なんとなくだが、昔からシンプルな色を好む傾向にある。別に他の色でもいいのだが、昔母さんに褒められて以来それを常に意識してるような気がする。やっぱり幼い頃の出来事というのは強く印象に残るらしい。
「おにいちゃん、おにいちゃんはままがいないってほんとう?」
そんな不意討ち気味の質問に俺は思わずフリーズしてから聞いていた。
「誰から聞いたの?」
「きのうゆめでみたの」
「なるほど・・・」
大方先生がお義父さんとお義母さんに説明しているのを寝ぼけて聞いていたのだろう。俺はその質問になるべく笑顔で答えた。
「確かにそうだけど、今は千鶴ちゃんと千鶴ちゃんのママがいるから寂しくはないよ」
「そうなの?ちーもね、おにいちゃんがいるから、ぱぱがいなくてもだいじょうぶ。ほんとうはおにいちゃんがぱぱになってほしいけど・・・」
その言葉に俺は嬉しくなって思わず千鶴ちゃんを抱き締めて言った。
「今はまだ無理だけど、俺は千鶴ちゃんのことを大切な家族だと思ってるよ。だからもっと甘えていいからね」
「えへへ・・・うん!」
思わぬ形で知ってしまった嬉しい事実。一歩前進したのは言うまでもないだろう。




