142 少しだけキレる
珍しく少しだけオコな健斗さん
「ねえねえ、雅人。デュエットしようデュエット」
「健斗、アニソン歌おうぜ」
執拗に雅人に絡む女子とそれをスルーして俺を誘う雅人。なんともカオスだけど、今はこれがリアルだから仕方ない。狭いカラオケボックスで、雅人と二人掛けで座る彼女は雅人から相手にされないのでこちらを睨んでくるが、スルーする。
「ちょっと、キモ男。さっさと出てけば?」
だというのに、わざわざ俺にそんなことを言ってくるので思わずため息をついて言った。
「それは構わないけど、そんなことすれば雅人も一緒にいなくなるけどいいの?」
「はぁ?そんなわけないじゃんバッカじゃないの?」
「そうか、なら雅人俺はこの辺で」
「ん?なら、俺も帰るか」
そう言って立ち上がった雅人に女子は慌てて言った。
「こんなやつに気をつかうことないってば」
「親友がいないなら今日はお開きにするべきだろ?」
「雅人は優しすぎるってば、こんなキモ男に優しくしてもいいことなんて何もないよ?」
どこまでも俺を悪者にしたいのだろう。まあ、わかるけど、しかしなぁ。
「そもそも、こんな奴雅人には相応しくないよ。ほら、キモ男。さっさと出てってよ。そして二度と雅人に近づかないでよね」
「・・・あのさ。ひとつだけいいかな?」
「何よ?」
いつもなら黙ってやり過ごすが、なんとなく今日は言いたくなったので言った。
「そうやって仮に雅人をゲットできても嬉しいの?」
「はぁ?当たり前じゃん」
「その人の気持ちを無視しても?」
「雅人と私は相思相愛なの!邪魔しないでよ!」
どうやらこの小娘は恋愛ごっこと、本物の恋愛を履き違えているようだ。それに相思相愛だと?
「そうして勝手に一人で騒いでいるだけできちんと相手の気持ちがわからないなら、そこには愛なんて絶対にない。おままごとと一緒だよ。いや、おままごとの方がマシだ。そんな君を雅人が愛すると本当に思うの?」
「な、何よ!アンタみたいな童貞に何がわかるのよ!」
「少なくとも、こんなお粗末なものを恋愛とは呼ばないことだけはわかる」
俺は立ち上がってから雅人に視線を向けると言った。
「悪いけど、帰るよ。あとはお好きにどうぞ」
「・・・少しだけ外で待っててくれ」
「わかった」
そうして俺はお金を置いてから部屋を出ていく。自分でもなんでこんなに怒っているのか疑問だったが、なんとなくわかった。きっとあれだね。勝手に他人の気持ちを決めつけるようなことをしているのにどうしても我慢できなかったのだろう。




