141 カラオケと罵声
カラオケ
「うわ、きっも。いかにも童貞っぽい」
出会って三秒でこんな台詞を吐く人がいるとは思わなかった。目的のカラオケに雅人と二人で向かうと、入り口で待っていた他校の制服のハデな外見の女子生徒に出会い頭にそんなことを言われたのだ。自己紹介とかは一切なく、雅人の隣にいた俺に躊躇いなく言ったのだ。
「こら、そういうこと言うなよ。こいつが気にするだろ」
「雅人、フォローの相手間違ってる」
「ま、冗談はさておき、いきなり俺の親友にそんなこと言うなよ」
「もう、雅人ダメじゃん!折角のデートなのにこんな奴連れてきたら空気最悪じゃん!」
随分と色々言ってくれるが、俺はため息をつくだけで何も言わなかった。最初の会話から知能が感じられないので話すだけ無駄だろう。こういう人間は自分のルールで生きてるので下手に話すとかえって面倒なことになる。
「ていうか、アンタさっさと帰れば?」
だと言うのにこちらに矛先を向けてくる女。まあ、当然かもしれないので俺は少しだけ諦めて言った。
「雅人からは友人とのカラオケと聞いているから、雅人の友達だね。初めまして」
「はぁ?いみふだし。私は雅人の彼女だから」
「自称かな?」
「じしょうって何?」
「いや、ごめんごめん。難しかったね」
義務教育の敗北を悟ってしまう。まあ、仕方ないだろう。
「じゃあ、雅人に聞いてみようか。雅人、俺は不要かな?」
「いや、むしろお前と遊ぶついでだからいてくれ」
「はぁ!?アンタふざけてんの!雅人に聞いたら優しい雅人はアンタみたいなキモ男を哀れんで言うに決まってるでしょ!」
自己中過ぎて呆れてしまうが、事実彼女の中ではそれが真実なのだろ。思い込みというのは視野を狭くする。多様な人間がいることは決して悪くはないが、こういう半端な人間を作りやすくはなってしまう。こういう人間が後先考えずに子供作ってその子の未来を蝕むんだよなぁ・・・害悪とは思っても嫌悪感までは持たないよう我慢する。
まだなにもしていないのだ。まあ、いつそうなってもおかしくはないけど。個人的には子供に虐待して喜ぶ親とか、邪魔になった子供を殺す親の元になりそうなのであまり関わりたくないのだが、ここで雅人を一人にするのが一番まずいだろう。
「雅人、頼むから今度は普通に誘ってね」
「ああ、とはいえ、お前は普通に誘っても来ないだろ?」
「こんなサプライズはごめんだよ」
「ちょっと!きいてんの!」
そうしてギャーギャー騒ぐ女を連れて三人でカラオケに入る。長い戦いになりそうだなぁ。




