13 朝御飯はすみやかに
先生の料理スキルはマイナス(^_^;)
「先生、コーヒーです」
「ん」
顔を洗ってきた先生にカップを差し出す。先生はもちろんコーヒーをブラックで飲む人なので砂糖やミルクは必要ない。一口コーヒーを飲んでから先生は少し驚いたような表情を浮かべた。
「これは・・・美味いな」
「そうですか?本当ならコーヒーメーカーとかあればそっちの方が美味しいと思うんですが・・・」
「家はないからな。それでもお前の淹れたコーヒーだからこんなに美味いのかな?」
「・・・どうなんでしょう」
さらりとイケメンなことを言われてしまう。この人は本当に天然でやってくれるので心臓に悪いな。そんなことを思っていると、とたとたと先生の元に走ってくる影が。
「おっと・・・ちーちゃん。毎朝起きるなり私に飛び付くのはやめなさい。びっくりするでしょ」
そう言いつつもその表情は穏やかなものだった。いきなり千鶴ちゃんに飛びつかれてコーヒーを落とさないように器用に抱き止めた先生はしばらくそうして千鶴ちゃんをあやしていたが、俺の視線に気づいて千鶴ちゃんに言った。
「ちーちゃん。おはようの挨拶は?」
「おはようございます・・・」
「うん。偉いけど、もう一人にも言おうね」
そう言ってから先生は千鶴ちゃんを抱き上げるとそのままこちらを向かせた。千鶴ちゃんはその動作で俺がいることに気づいたのかびくっ!としてから目をそらしつつ硬い笑顔で言った。
「お、おはよう・・・ございます・・・」
「おはよう千鶴ちゃん」
これはまだまだ仲良くなるには遠いなと思いつつ俺は時間を確認して二人に言った。
「とりあえず朝食準備するから二人も準備してきてください」
「準備?」
「着替えですよ。流石に時間もキツイですし早く食べないと遅刻しますよ?」
そう言うと先生は納得したのか千鶴ちゃんを連れて着替えにいった。とりあえずこれで目のやり場に困ることはないとほっとしつつも少し残念に思いながら俺は朝食を盛り付ける。
そうしてパンを焼き、スクランブルエッグとベーコンあとはバランスを良くするために軽くサラダを作って待っていると二人は着替えが終わったのか、先生はスーツ姿で、千鶴ちゃんは保育園の制服に着替えてきた。
「おお、久しぶりにまともな朝食がとれるな」
「久しぶりって・・・まさか最近食べてなかったんですか?」
「ちーちゃんにはパンとバナナ食べさせていたよ」
つまり自分は食べてなかったんだと思ってじと目で見るが先生は気にした様子もなく千鶴ちゃんと手を合わせて食べはじめた。
「はむ・・・それにしても、同じパンなのに私が焼いた時とどうして味が違うんだ?」
「味って・・・つけてるジャムが違うからじゃないんですか?」
「へぇー、ジャムって味を誤魔化すためのものじゃないんだな」
おや?今おかしな単語が聞こえたような気がするが。まさか先生パンを普通に焼くことすら出来ないほどの料理オンチとか言わないよね?ないとは思うよ。現実でそんなベタなことは。でもそれがありそうな予感がするので俺はしばらく一人で悩んでしまったが・・・まあ、結果的に俺がこれから毎食作れば問題ないだろうという結論に落ち着いたのだった。