117 シンデレラへの憧れ
シンデレラ
「シンデレラか・・・」
スペースマウンテンの後に残りの時間で訪れたのはシンデレラ城だ。見て回るこのアトラクションは混んでる時はとことん混んでいるそうだが今のところそこまで酷い混雑ではないので助かる。そんな風にして見ていると何やら先生が少しだけ懐かしむように言った。
「私も昔は憧れたものだよ」
「やっぱり親子ですね。千鶴ちゃんもシンデレラは大好きですし」
何度も読み聞かせているので暗記してしまっているくらいだ。
「まあ、そうだろうな。綺麗なドレスとガラスの靴を身につけて格好いい王子様とダンスを踊る。女の子なら憧れるさ」
「そういうものですか」
「ああ。まあ、実際私の場合は和也と結婚式もまともにしていないからそう感じるんだろうな」
その言葉に思わず足を止めてしまう。
「ん?どうかしたのか?」
「してないんですか結婚式」
「ああ。入籍したらそれで終わりさ」
その言葉に驚いてから少しだけ納得してしまう。周りの反対と先生からのアプローチ。確かにこの条件で結婚式なんか開けるわけがないよな。
「ま、本当は少しだけ花嫁衣装には興味があったがな」
そう寂しそうに微笑む先生に俺は思わず言っていた。
「なら、今度はちゃんとやりましょう」
「やるって何を?」
「結婚式です。俺が卒業したらきちんとやりましょう」
「お前な・・・いくらかかると思ってるんだ?」
「お金はきちんと準備してありますよ」
何年もほぼ手付かずで貯めたお小遣いとお年玉、それに高校での三年間のバイト代。額にするとかなりの額がある。結婚式と新居のお金の足しにはなるだろう。それに死んだお祖母ちゃんが俺用に残してくれたお金もある。随分とお祖母ちゃんには心配かけたようでわざわざ残してくれたこのお金の使いところはそれしかないだろう。
「俺は主夫ですから、こんな時くらいしか格好いい姿を見せられませんが・・・それでも遥香さんの王子様にさせてください」
その言葉に先生はしばらく黙りこんでからくすりと笑って言った。
「まるでプロポーズだな」
「かもしれませんね」
「まったく・・・結婚式なんてやる予定はなかったんだがな。こんなところで昔の想いを引きずり出されるとはな」
「どんな些細なことでも俺は遥香さんと千鶴ちゃんのためなら気にかけますよ。大切ですからね」
その俺の言葉にため息をついてから先生は笑顔で言った。
「楽しみにしておくさ王子様」
「はい。俺のシンデレラ」
格好つけるつもりなんてなかったけど、こうしてちいさな約束をした。だから俺は先生の王子様にいや、先生の王子様と千鶴ちゃんの父親になろうと改めて誓うのだった。




