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101.5 叔母さんなりの気遣い

電話の少し前のこと


「どうかな?ちーちゃん美味しい?」


健斗と遥香が修学旅行に行ったその日の夕飯。作ったご飯を食べさせてそう聞くと千鶴は頷いて言った。


「うん。おいしいよ」

「そっか。なら良かったよ」


そうは言いつつも千鶴の表情が明るくないことに瑠美は気付いていた。


(ま、二人がいないこともだけど、やっぱり健斗くんのご飯に慣れちゃうと私のじゃダメか)


瑠美は決して家事が出来ないわけではない。むしろ姉よりも圧倒的に得意だが、それでも健斗のように長年必要に応じて作ってきたわけではないのであまりレパートリーも多くなければ、完成度も高いとは言えない。


前に健斗のご飯を食べた時からの不安が的中してしまって苦笑してしまうが、それでも瑠美はなんとか聞いた。


「ちーちゃん、今日は何をして過ごしたの?」

「おにいちゃんにおそわった、おりがみをりっちゃんたちにおしえたの」

「へー、折り紙ねぇ」


なんとも多芸な健斗に思わず笑ってしまう。姉との結婚がなければ保育士を目指していてもおかしくはなかっただろう。まあ、かくいう瑠美も元は保育士。あの現場の男の厳しさには思うところがあるので、ある意味今のポジションが正解かもしれないと思いつつ瑠美は言った。


「ちーちゃんは器用だねぇ。ちーちゃんのママは結構不器用なのに誰に似たのか」


いや、わかっているが、この子に父親である和也の血が流れていることに少しだけ複雑な気持ちになってしまう。言っては悪いがあまり関係は良くなかった。瑠美は和也が嫌いで、和也も瑠美のことを苦手としていた。そんな複雑な気持ちをこの子に向けるのは間違っているとわかっていても、やはりあの男と姉の子供だと思うと少しだけ複雑になる。


(健斗くんは本当に凄いなー)


好きな人と他人の間に産まれた子供に全く躊躇なく愛情を注げる健斗に改めて敬意を評する。血の繋がりなんて関係なく本当に家族として千鶴を愛する健斗と、健斗を慕う千鶴。いや、きっとそんな健斗だからこそ千鶴は健斗を慕うのだろう。


(姉さんは本当に幸せ者だねぇ)


思わず姉を羨ましく思ってしまう。こんな風に過去のことを受け入れてそれを許容して共に歩んでくれる異性との出会い。和也とのことも全ては健斗との出会いのための布石だったのではと邪推してしまうほどに良く出来た状況。人生とは良く出来ているものだ。


そうして夕飯を食べてから片付けをして一段落していると、携帯が鳴る。ディスプレイを見れば巽健斗の文字。それに苦笑してから瑠美は電話に出てから、今日のことを少しだけ話して、その後に千鶴に変わってその電話の様子を見ながら思うのだった。


(本当にいい笑顔だねぇ)


電話をしている時の千鶴の顔で、ほのぼのしながらこの子のためにも早く戻ってきて欲しいと思うのだった。



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