1 進路希望から始まる愛
思いつき・・・他の作品の投稿と同時にやるので頻度は低めの予定。年の差で主夫ってなかなか難しいですねぇ・・・
「巽・・・お前これ本気か?」
時刻は放課後、目の前には呆れ気味の担任教師が座っている。長い黒髪の美人教師であり俺、巽健斗の高校での担任教師である彼女に俺は真面目な表情で頷いて言った。
「ネタや冗談では書いてません。本気です」
「いや・・・だとしてもお前高3にもなって進路希望調査に『主夫』と書いてきた奴はじめてだぞ?」
ヒラヒラと俺が書いた進路希望調査の紙を見せつける先生。そこには俺の字で第三希望まで『主夫』と書かれているが・・・俺だって冗談で書いたわけではないので呆れている先生から目をそらさずにしっかりと目を見ながら言った。
「昔からの夢なんですよ。本当なら第二希望に『父親』と書こうかと思ったんですが・・・俺的には『主夫』と『父親』で優劣をつけたくないのでとりあえず『主夫』で統一しました」
「で?肝心の相手はいるのか?」
「これから探します」
「つまりふざけてこんな紙を出してきたって認識でいいのか?」
ボキリボキリと拳を鳴らす先生。ヤバい・・・目が本気だ。
「じょ、冗談ではなくて、これから俺を永久就職させてくれる人を探すんです!」
「そんな都合のいい奴いるわけないだろ。そもそもお前はそこまで容姿が優れているわけでもないし、学力、運動能力も特筆するほどのものもないしとりたてて話術が得意でもないから無理だろ」
担任からここまで自分を否定されると思わず地味にショックを受けながらも俺はなんとか反論する。
「料理とか出来ますし、家事も一通りこなせます。何より浮気しませんし子供大好きです」
「料理だと?お前がか?」
「はい。あ、ちょっと待ってください・・・」
俺は鞄から夜用の弁当箱を取り出して蓋をあけた。中身は軽めのメニューでバイト前の腹ごしらえ用に作った野菜の煮物などの数種類のメニューなのだが・・・先生はそれを見てフリーズした。
「これ・・・お前が作ったのか?」
「ええ。バイト前に食べようと思いまして。どうにも燃費の悪い体なので」
「育ち盛りなんだろうがでも・・・確かにうまそうだな」
「良かったら一口食べます?」
「あ、ああ・・・」
まだ未使用の箸を先生に渡すと先生は野菜の煮物を一口食べてから呟いた。
「うまい・・・」
「そうですか?よかったぁー」
いつもは男友達しか食べないので女性からのはじめての感想がそれでホッとした。しかしそんな俺に対して先生は何やら真剣な表情で悩んでから・・・俺を品定めするように観察してきた。
「見た目はまぁ許容範囲か・・・性格も確かに大人しいし、何より料理が出来る。浮気もしないで子供好きなら・・・よし!」
「あの・・・先生?」
「巽。お前年上はイケるか?」
「はい?いきなり何を・・・」
「いいから答えろ」
何やら真剣な表情の先生。俺はそれに黙って頷くことしかできなかった。
「だ、大丈夫ですが・・・」
「子持ちで、バツ一でもか?」
「ええ。子供大好きですし、何より好きになればそこは関係ないです」
「仕事が趣味で家は丸投げでもか?」
「そういう人のために俺は主夫になりたいんですよ」
「そうか・・・」
一体どうしたのだろうと思っていると先生は進路希望の紙を手にとってからニヤリと笑って言った。
「良かったな。巽。お前を募集しているところが一つあるぞ」
「本気ですか!なら是非!」
「そうか・・・ならお前は私の旦那になりな」
「へ・・・?」
ポカーンとしている俺に先生は男前な笑顔で言った。
「巽健斗・・・お前を、私、黒羽遥香が養ってやると言ってるんだよ。私の旦那になりな」
それが俺、巽健斗と黒羽遥香の関係を変化させるきっかけとなる出来事だった。今にして思えば俺と先生はかなりおかしい会話をしているのだけど・・・そこは大目に見て欲しいところだ。