新緑の王子さま
外の窓際の席、前から4番目。
それが済陵高校1年7組48名、出席番号第4番の私の席。
進学校である我が校で、授業中の私語・よそ見は厳禁だ。
しかし、私はそっとわからないように、窓の外の風景を眺めている。
桜の大木。
それはもうとっくに花びらを散らし、青々とした新緑を誇っている。
毛虫の害虫にも負けずに、堂々とその枝葉を伸ばしている。
(お前、元気だねぇ…)
そんな呟きが漏れる。
学校に馴染めず、新しいクラスメートとも未だよそよそしい私には、その生命力は、羨ましいくらいだ。
「井上! どこを見てる?!」
その時、先生から名指しで叱られた。
クスクスと笑いが起こる。
「教科書の続きを読め」
しかし、よそ見をしていた私には、どこから読めばいいのかわからない。
「13ページの2行目からだよ」
その時、右隣の席の酒井君がそっと耳打ちしてくれた。
「あ、ありがとう…」
小さな声で御礼を言い、私は教科書の朗読を始める。
酒井君…クラス一のイケメンで、皆からの信望も厚い。
そんな彼が、私の窮地を助けてくれた。
ただそのことだけで、私の心は軽くなる。
窓の外では、桜の新緑が風に吹かれ、その木の葉を気持ち良さそうに揺らしている。
ただ、それだけのこと。
しかし、私の心はなんとも言えない温かさを感じ、これからは皆ともうまくやっていこう。
そんな密かな決意が芽生えた瞬間だった。
本作は、なななん様が活動報告内で企画されたお題小説です。
テーマは、「学校」「新緑」です。
又、本作は、銘尾友朗さま主催「笑顔でいこう企画」参加作品です。
お話を書くきっかけを下さったなななん様、素敵な企画に参加させて下さった銘尾友朗さま、そしてお読み頂いた方、どうもありがとうございました!