一話 俺の話を聞いてくれ (2)
面白さを追求したら、失敗したんじゃないかこれ…?
とりあえずで今の寝間着姿からいつもの制服姿に着替えないとか…。
身支度を揃え、リビングで朝食を取るため下の階へと歩む。
階段を降りる途中、パンを焼いた香ばしい匂いがする。うむ、今日の朝ごはんはパンか。悪くない。
階段を降りリビングの引き戸を左にやり、足を踏み入れると、やはり朝ごはんはパンだった。
テーブルの上にはコーンポタージュ、トースト、サラダが並んでいる。うむ、いいセンスだ我が姉よ。
さて、座ろうかと思い椅子に手をかけると、俺とは反対側のテーブルの先から視線を感じる。
視線がする方に目を向けると、俺の妹の琴葉がこちらを物凄い剣幕で見ている。
琴葉は、まだいつものピンクの水玉模様のパジャマで、ボサボサの髪を一つにまとめ、眠たそうに欠伸をしながら俺の事を睨んでいる。
俺なんか琴葉にしちまったか…?
と、とりあえずで琴葉にも挨拶しておくべきなのだろう。
「お、おはよう琴葉」
「・・・」
何故か琴葉は黙ったようにこちらを睨みつけているが、昨日の俺、なんか悪い事したのか…?!昨日の俺!一体お前は何したんだ?!
((昨日の俺は確か、いつも通りに学校行って、その後帰宅して風呂入って、晩飯食べて、キューティー♡キュリアを見た位だぜ…!))
なんか俺の中にいる昨日の俺が、ドヤ顔でキューティー♡キュリア見たって事誇ってやがるんだが…。
(((使えないな昨日の俺よ…。今日の俺が求めてるのはキューティー♡キュリアを見たからと言ってドヤってる事じゃねぇんだよ…!確かにドヤりたいその気持ちは今日の俺ならわかるんだが…!)))
よし、昨日の俺も今日の俺も使えないって事は把握したぞ。
だがしかし、把握したからと言って目の前でムスッとした琴葉の態度は変わらないな。
「…、ねぇーねが起きろって言って、起きなかったお兄ちゃんが悪い…」
「…え?」
今まで口を閉ざしていた琴葉がふと、呟いた。
「別に、昨日のお兄ちゃんが悪いとかじゃなくて、今日のお兄ちゃんが悪い…」
昨日の俺と今日の俺にダメージが二乗する。痛い。
いや、確かに姉には起こされた。だが、睡眠には勝てないだろ…?
いやまてよ…?なんでこれが不機嫌な理由なのだ…?
「た、確かに俺は姉ちゃんが俺の部屋に来てから起きたぜ。でも、それでなんで琴葉がおこなんだ?」
「ねぇーねに起こしてもらえないと、起きれないお兄ちゃんに呆れたから」
「呆れたって言葉よく知ってるな?!」
まさかの11歳の妹から言われた言葉が呆れた、とは。これ如何に。
「た、たしかに不甲斐ない兄ですまんな琴葉」
「そーいう事言うよりも、早く朝ごはん食べなよお兄ちゃん」
「食べようと思ったらこっち睨んでたからなんかしちまったんじゃないかと思って焦って聞いたんだが?!」
実際に焦ってたのだから、理由を聞いたまでなのだが。まぁ、よかろう。
「全然良くないけどね」
「お前は悟りなのか?!」
さっきの昨日の俺との会話といい、これといい、なんで琴葉は俺が思っている事がわかるんだ?小五ロリなのか?
「蓮~、さっさと食べちゃいなさぁ~い」
キッチンの方から姉の声がする。
いや、まぁ、確かにこんな下りを見てたらはよ食えよ。って思うよな。
実際俺もそろそろ食べたかったし、琴葉の機嫌はまぁまぁ良くなった(?)しな。
俺は再度椅子を引きなおし、今度こそ座る。
さて、気を取り直していただきますか。
「いただきます」
手を合わせ、今日も今日とて姉が作る朝食を食べれる事に感謝して、さて、いただきます。
バターが溶けつつあるパンをちぎり、薄っすらと湯気が上がるコーンポタージュにちぎったパンを半分程漬け、それをそのまま口にもっていく。美味い。
コーンのほのかな甘い味に、パンの香ばしさが口の中に広がり、もう一口、もう一口と無意識の内に手が先程と同じ動作をする。
スープの中身があっという間に減り、パンも丁度食べ終わったところで、食べ忘れていたものがあった事に気付いた。サラダだ。
パンのお皿の上にあったサラダの存在を思い出し、サラダに視線を向けると彩りの野菜にサラダドレッシングがかかった、これまた健康に良いサラダがあった。
手を伸ばし、箸を使って口に運ぶ。野菜は瑞々しく、それでいて噛む度に野菜の甘みや自然の味がする。
気付くと、サラダも平らげていた。やはり、俺の姉の作る料理は美味い。
「ご馳走さまでした。今日も美味しかったです」
キッチンにいる姉を見て、今日も美味しかったと言うと、姉は笑って「でしょ~」と、自慢げに言っている。
「んじゃまぁ、学校でも行きますかっ…と」
椅子から立ち上がり、何か忘れているような感覚を覚え、その場でフリーズしてしまう。
そんな俺を二人は見ていたのか。首を傾げ、ハテナマークを浮かべている。
んー…。何か、忘れ…て。
「あっ。やべぇ!忘れてた!!」
控えめに言って忘れていた。完全に頭から抜けていた。
「ちょ!俺もう行くは!」
忘れちゃいけない事を忘れていた。急いでリビングを後にし自室に行き、鞄を持ち、制服を着て、玄関へと駆け込む。
「蓮、もう行っちゃうの?」
靴の踵を直していると、リビングの扉から、ひょっと顔を出した姉が聞いてくる。
「悪ぃ!洗い物当番明日やるは!じゃあな!」
急いで玄関のドアに手をかけ、一目散に家を出てた。そしておれは、走って近所の公園の前まで走ってきた。家からここまでは走って一分位の距離まで来た。
あとはもう、ゆっくり歩いて学校に向かう。
は?走れよ。って思ったか?
残念だな。今日の俺は急いでなんていないんだ。さっきのは急いでいるフリをしただけだ。
実際、姉達から見れば俺が急用があって家を出て行く姿が映っただろう。それだけ俺は必死だったんだからな。
そう。俺が言う急用ってのはなぁ、洗い物当番の事だよ。
いいか?高校生でもある俺が何故朝から洗い物をしなくてはいけない。問おう。何故俺が洗い物をしなくてはいけないのか。姉が家に一日中いるわけだし、俺の母親の代わりをするって言ってたのだから、俺が洗い物当番をする必要はない!!以上だ!
((あ、やべえ、石に躓い…。))
見事に前のめりになって転んだわ。いや、ちゃんと両手が反応したから、ダイナミック腕立て伏せした感じになっただけだ。
あ、やばい。恥ずかしい。視線感じる。周りから何やってるのかしらあの高校生って視線感じる!
そろそろ起きあがらないと本格的に恥ずか死ぬぞ…?
「あ、あの!大丈夫ですか?」
起き上がろうとした直前に、男の子っぽい声が頭上から聞こえた。
聞き覚えのある、この声はまさか…!
夜な夜なお腹が空きました。ラーメン食べたい。