〜第7章〜異世界へ
〜第7章〜異世界へ
初任日より1日前に、俺たちは
スーツケース持参で本社にいた。
しかも、従業員がほとんど追い出されて
静まり返った22時にだ。
「こんな時間に集まってもらって
申し訳ないな。」
俺たちを異世界へとエスコートしてくれる
尾崎先輩は、ニヤついたようなだらしない
笑顔が特徴的な一見頼りなさそうな先輩だった。
ひょろっとしていて、
ものすごく喧嘩が弱そうだが
空手は黒帯らしい。
(本人から自慢された。)
「一応荷物の中確認させてもらっていいかな?」
ヘラヘラっと手を空にある何かを
揉んでいるかのように近づいてくる尾崎先輩に
椎木さんは反射的にじりじりと
後退している。
「いやいや。そういう変な意味じゃないんだけどね。私服とスーツだけ、もってきたブランド名確認させてもらえる?」
「俺は、ウニクロとDAPです。」
「なら問題なし!」
「私は、SARAとTRIBUTEです、大体。。」
「大体なら今全部広げて確認してもらってもい」
バコン。
椎木さんは反射的にこぶしで
尾崎先輩を殴ってしまったらしい。
「いやいやごめん、セクハラかなあ?これ、
そんなつもりじゃなかったんだけどね、
でもまあそこまでいうならいいよもう。」
椎木さんの顔が引いている。
もうこれでもかっていうぐらいの
軽蔑の目だ。笑
「じゃあ、準備はできたから
このアーチをくぐりぬけてもらっていいかな?
電源いれるから。」
190センチぐらいはあるであろう
黒くひんやりとして見える
金属のアーチ状の物体が部屋の隅に置かれている。
「じゃあ、岡田くん〜前へ!」
旗を振り上げるように手を振り上げ、
やたらテンションの高い尾崎先輩を
前に俺は固まった。
「えっと。俺が行くんですか?」
「ほらほらグダグダ言ってないで早く♩」
「うわっ」
俺はスーツケースを持ったまま
バランスを崩し、アーチをくぐった。
「あれ?いない。」
アーチをくぐった瞬間。
後ろいたはずの2人が誰もいなくなった。
「あれ?どうしてあっ」
アーチを覗き込もうとした俺はだれかと思い切りぶつかり、後ろ向きに倒れた。
椎木さんだった。
「私も後から行くってわかってたでしょ?
ならどいててよ。」
「ちょっとぐらい心配してくれないの?
下敷きになってる俺のこと。」
俺は椎木さんの氷のような目を見据えて
言った。
「うわあ2人ともなに床で抱き合ってんの、
2人とももしかしごめんなさいごめんなさい」
椎木さんの一にらみで後から来た
尾崎先輩が黙る。
「さあ、異世界着きました〜
後はおうちに送って行くからね。いって
会社のすぐ近くの社宅だけど。」
「なんか、そのまんまですね。」
俺は辺りを見回した。
さっきまで、アーチを潜る前の部屋となんら変わらないように見える。
「そうかなあ?
でも異世界なんだよここが。」
尾崎先輩はピエロのような
とってつけたような笑みを浮かべると、
部屋の出口に背を向け言った。
「異世界へようこそ。」
俺たちの異世界での駐在ライフが
はじまった。