1 町編
いつものゆっくりと眠りから覚めていく感覚が嫌いだった。
夜勤明けに眠ってしまうと当然起きた時には外は暗く、予定も約束も何もなくても酷く後悔することを知っているからだ。
灯りの消えたくらい部屋で独りであることを自覚させられるのはいつまでも慣れなかった。
しかし今日は違う。
外が明るい。
ベッドも何だか固い気がするしガヤガヤとうるさい。
体を起こして周りを見ると明らかに自室ではないのがわかる。
明らかに木造の内装はキャンプ場で昔みた建物に似ている。
人の声がするのはどうやらここより下の様で、つまり自分は今2階以上にいるらしい。
深呼吸をして考えてみたが、どうやらこれが最近良く聞く異世界転移なのではないのだろかという結論に至る。
そこまで慌てずにいられているのは前情報が豊富だからか、もしくは図らずも願っていたのかもしれない。
ここに来ることを、というよりはあそこではない場所へ行けることを。
ともかくこうなった以上は現状を良く知ることが必要だと考えた。
ここはどこなのか、自分がどういう存在なのか。
今更になって妙な高揚を感じる、伝説の勇者とまではいかなくてもこの地域くらいは救うことになるのかな、なんて思うと自然に顔が緩む。
階段をゆっくりと降りていく。
滑り落ちて、その着地地点に天真爛漫な巨乳のウェイトレスでもいればハートフルラブコメティ一直線だ。
しかし意識してはいけない。あくまで事故でなければ。
敢えて下は見ないように、それでも不自然になりながら足を運ぶ。
普通に降りてしまった。
右手には小さな食堂が見える。
客はまばらだが活気があるように見えるのは席の離れた客同士が交わす大声のせいかもしれない。
ウェイトレス、というにはあまりにも飾り気のない女性がこちらに気づいて近づいてくる。
少し年上だろうか、おばさんと呼ぶには若いが決して少女ではない。
「あら もう起きたの?体調はどうかしら あなたは落ち着いている方なのね。詳しい話は村長に聞いてもらえるかしら うちを出て左に行けば少し大きなお家があるから」
ほらほら、と出口まで誘導されてまともに口を利く前に外に出されてしまった。
昼時で忙しいのだろうか
それにしても何だかあまりにもマニュアル感の強い対応であった。
モヤモヤとしながらも言われた通りに村長宅を目指して歩く。
村長がいるのだから当然ここは村ということになるのだろう。
建物はどれも木造で、二階建てなのは今出て来たここと、目的地である所の村長宅くらいらしい。
あまり大きな村ではなさそうだ。文明も決して近代的とは言えない。
未来の知識で神様扱いされるというのも今では王道らしいな、などと考えながら歩いた。
村長宅は確かにその村では一番と言える大きさではあったが、呼び鈴らしきものは当然見当たらず、少し迷ってからドアをノックして入ることにした。