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CASE5.真打・懐刀~蛍狐~

よろしくお願いいたします。

この作品は第6回おおくま杯・戦慄杯の応募作品である懐刀・蛍狐のセミロングバージョンです。

中学三年生の夏、さとみは法事で父方の田舎を訪れていた。

法事が執り行われるまではやることもなく、縁側でぼーっと景色を眺めていた。

そんな孫娘を見かねた祖母はさとみに浴衣を着付けてくれた。

こんな田舎では楽しくないでしょう、今日は祭りがあるからいってらっしゃい。

あまり着ない浴衣にテンションが上がりに上がった彼女は疲れるまでやぐらの周りを踊り回った。

流石に疲れたので端の方に据え付けられたベンチで休憩することにした。

座ってからしばらくすると、狐のお面をつけた男が近づいてくるのが見えた。

「こんばんは」

太鼓が荒れ狂う祭囃子の中、その声はやたらとはっきり聞こえた。

「……?こんばんは?」

知らない人物に戸惑いながらもさとみは答えた。

「お嬢ちゃん一人かい?友達は?」

「今は一人だよ。友達はいっぱい!」

「そうかい。そりゃ良かった」

よっこいせとお面の男はさとみの横に腰を下ろした。

「学校は楽しいか?」

「うん!楽しいよ!毎日皆わたしにお花くれるの!」

「そうか、お嬢ちゃんはお花好きなんだな」

「うん!でも毎日同じ花なんだよね……たまには変えてくれてもいいのに」

「みんな親切なんだな」

「うん!他にも教科書隠したり破いたりしてくれる!」

「おいおい、そりゃ意地悪じゃないか?」

「えー?わたし勉強嫌いだから親切だよ!」

「勉強はしっかりしないと駄目だぞ」

「むー、狐さんなのにお父さんとお母さんと同じ事言う」

さとみはもう話したくないと言わんばかりにそっぽを向いた。

年頃の女の子は難しいといったようにお面の男は頬をかく。

しかし、さとみも本気でお面の男と話したくない訳ではなかった。

初対面どころか顔もわからない相手であったが、家族のような妙な安心感があった。

それに狐といえば、と思い出したように、さとみはお面の男に向き直り、身を乗り出すように尋ねた。

「ね、狐さんは恋愛の神様なんだよね?」

「え?違うぞ?」

「えー?皆休み時間に十円玉で狐さんに恋愛相談してるよ?」

「あれはもっとヤバい物だからやめた方が良い。なんだ?好きな男がいるのか?」

「うん、狐さんにだけは教えてあげるね」

二人のすぐ近くには誰もいなかったが、さとみはお面の男に耳打ちするように伝えた。

「……それなら良い方法があるぞ。これを使えばハートを射止めるどころかイチコロだ」

「ほんと!?教えて教えて!」

さとみが促すとお面の男は耳打ちを返してその方法を伝えた。

衝撃を受けた。

聞いたことのない恋愛のおまじないに太鼓の律動と自分の鼓動が一致したかのようだった。

「凄い!狐さんそれ凄い……あれ、狐さん?」

横を見ると先ほどまで男が座っていた場所には誰もおらず、お面だけが置かれていた。

「また来年なー!」

声のした方を見るとおそらくお面をかぶっていたであろう男が手を振って50mほど先に立っていた。

さとみが声を返す間もなく、男は暗がりに消えていった。



盆踊りも終わり、人がまばらに散っていく。

辺りもどんどん薄暗さを増していったが蛍の明かりはそのままだった。

蛍火を頼りにまた来た道を戻り、祖母の待つ家へと帰った。

「お帰り、さとみ。祭りは楽しかったかい?」

「ただいま、お祖母ちゃん。うん、楽しかった。けど今日はもう疲れたから寝るね」

祖母の返事をを待たずにさとみは割り当てられた部屋のある二階へと上がっていった。


法事に出席するため、家には大勢の親族がいた。

その全員が寝静まった深夜、さとみは寝ている姿勢から上半身を起こした。

さとみは一人で寝ていたが他の者を起こさぬように慎重に歩き、勝手口から離れになる蔵へ向かった。

「鍵、これだよね……」

さとみは蔵の入り口に掛かっているダイヤル錠に手を伸ばし、ダイヤルを回していく。

「3・1・0・3っと……」

はたして錠は開き、さとみは蔵へと足を踏み入れていった。



居間のテレビにニュースが流れていた。

『次のニュースです。ハツ市テバサキ駅周辺で通勤途中の男性が

胸を深く刺され、道路上で横たわっている所を地元住民が発見しました。

男性は病院に搬送されましたがまもなく死亡、

警察は周辺を捜査中、血塗れの女子中学生を発見し、事件の関係者である可能性が高いとみて確保しました。

近隣住民によると女子中学生は移送中に「狐さんに教えてもらった」と意味不明な事を叫んでおり、心神喪失の可能性も見られるとのことです。

市の教育委員会は学校でもいじめ等の問題はなかったか、中学校側に調査に踏み入るとしています』

「あらぁ、都会は怖いねえ。ねえ、お父さん」

さとみの祖母が仏壇に問いかけた。

飾られた遺影には狐のお面を斜めにかぶった男が写っていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

没の理由→微妙に字数オーバーしている。

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