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第十七章 裁判

第十七章 裁判


「被告人、草野秋人、貴様はこともあろうかこちらにいらっしゃいます麗しき原告3名の美女たちに対し、三股をかけている卑猥罪、猥褻罪、隠匿罪、痴漢の罪に問われています。その所業はもはや人ではなく、そう、悪魔でございます。我らが悪魔をも超えたキングオブ変態悪魔。それが貴様だ草野秋人ー!そこで、だ。この方々からのご依頼によりこの私が、この私が貴様をこちらの世界に召喚したのだ。貴様にはこの場で白黒はっきりつけてもらうぞ。」

「あのぉ、すいませんがよく話が見えてきませんので帰っていいですか?」

「うそつけー!!分かってるだろがこのボケー!貴様は今から土下座して謝り、そして今後どのような身の振り方をするか発表するのだ、この場でな。この私が証人として見届けてやろう。ありがたく思え。今日のこの会話はICレコーダーに録音し、金庫よりも厳重なドラゴンの巣の中で未来永劫大切に崇められるのだ。」

「頼む木村、僕の恥部をドラゴンさんに守らせるのだけは止めてください!」

「では、カチッとレコーダーのスイッチを入れたところでまずは原告の方々からの証言をいただくとしようか。まずは亜美、何か言うことがあるかね?」

亜美はゆっくりと椅子から立ち上がったが、僕とは視線を合わせなかった。うーん、こんな状況は予想していなかった。

「そうだね、あたしと秋人は付き合ってたけど、あたしが人じゃなくなって、こっちの世界に来ることになったから別れたって思ってたんだよね、秋人だけ。あっ、別にいいんだよ、もう会えないと思ってたし、あたしにはハルトさんもいるから。だから秋人は全然気にしなくてもいいの。でも、でもね、どうしてヴァンパイアなんだろーなーって疑問に思っただけ。ただそれだけだから。」

ああ、一度もこっちを見てくれません。

しかもこの言い方、相当お怒りでいらっしゃるように聞こえます。

声が冷たーい冷気をまとっているように感じる。

「亜美よ、このM男にはどうしてほしいのだ?」

「だれがM男だ!」

「貴様しかおらんだろうがこのドMめっ!それと言ったはずだ、私の指示があるまで黙っていろとなっ!性格がMなら脳みそまでMか!怒られることでアドレナリンが大量射出されるのか?まったくいやらしい男だよ。」

おいおい勝手に決めるなよ。

しかしこの空気の中、これ以上僕は何も言えなかった。

いつもニコニコしているシェリルでさえ今は真剣な表情をしている。

「あたしはね、その、もう一度秋人と、ね。でも中々会えないし、諦めようって思ってたんだけど、でもここにいるヴァンパイアの2人、どちらかと付き合うんだったら元々恋人のあたしでもいーじゃんって思うの。ただそれだけ。」

「うむ。亜美の言い分は分かった。つまりアレだ。他の人と付き合うなら秋人はぶち殺されるってことだ。では次、シェリル。秋人に何か言うことがあるか?」

シェリルはゆっくりと椅子から降り、僕の目を真っ直ぐに見た。

初めて見るかもしれない真剣な表情だ。

「シェリルは秋くんが好き。だからあっちの世界にずっと住んでもいい。秋くんの近くにずっといたい。キンバリウム家はお兄ちゃんが継いでくれるし、シェリルは自由だもん。そもそもユナはお兄ちゃんの婚約者でしょ?それに亜美ちゃんはお兄ちゃんの眷属魔。ってことは必然的にシェリルしかいないじゃん?だから秋くん、シェリルをもらってください。」

「うむ。シェリルの言い分は分かった。つまりアレだ。私の代わりにキンバリウム家を継ぐために婿が必要だと。その相手としてふさわしいのが将来有望な魔族になると予想される秋人だ、ということだな?」

「いや、全然違うし。っつーか僕は魔族になんてなることないし。」

「まあなんでもいいよ、秋くんと一緒ならキンバリウム家を継いでもいいよ。」

「なっ・・・んだと?私は妹と秋人の交際を認めたい。」

「おい裁判長、私利私欲で動くとはどういうことだ?」

「いかんいかん、私としたことがつい。最後にユナ。秋人に言いたいことはあるか?」

「私はその、なんだ。確かにラインハルト様の婚約者ではあるけれど・・・ラインハルト様が嫌がっておられる以上、私としてもお父様と相談して破談にすることも考えています。第1貴族としてより強くなることを考えないといけないのですが、結婚はまだ数年先でも大丈夫なので、だから、私も秋人ともう少し一緒に、その、いたいな。」

「うむ。ユナの言い分は分かった。つまりアレだ。この超ハンサムな私を差し置いてそこの下半身でしか物事を考えられない男を取るということだな。よかったな、ユナ。ついに本当の愛を見つけられたのだな。私はこのことを予想して婚約を認めていなかったのだよ。」

「ラインハルト様・・・あとでドゥルックを向かわせますので遊んでやってくださいね?」

ああ、なんて可愛い笑顔なんだろう。

その笑顔のあまりの美しさに木村が石になっているじゃないか。

「お兄ちゃん!固まってないでさっさと話を進めてよ。」

「あ、ああ、すまなかった。そうだ、被告からの言い分も聞いておこう。秋人、死ぬ前に言い残すことは?」

「死ぬの!?僕は死んじゃうんですか!?始祖じゃなかったんですか!?」

「細かいことは気にするな。パゲるぞ?まあ私は女性の下の方はパゲてる方が好みだが。」

「こらぁ!さらっと何を言っちゃってくれてんの?放送禁止だよ?」

「ええい!黙れ黙れ黙れぃ!さっさと言わぬから貴様の発言はこれにて終了だっ!」

木村がいつの間にか木槌を持って、テーブルをドンドンとたたいた。

「静粛に。では判決を言い渡す。被告、草野秋人。貴様はあちらの世界でこれからも細々とした貧相な人生を送る流刑に処す。ただしその監視役として亜美、ユナ、シェリルを派遣する。よってその3人の監視役とともに生活し、長くとも5年以内にその監視役の中から生涯をともにする伴侶を選択すべし。これ以上は他の女を泣かすことを許さず。これに伴い亜美、貴様は私の眷属魔という栄誉ある地位を解雇だ。クビだ能無しめ。私の魔力で生きているだけで別にあちらの世界へ行っても支障はないだろう。さらにユナ。貴様は私の許婚としては失格だ。私はもう少し穏やかな日々を過ごしたい。既に父にも話を通してある。あちらの世界へ行って数年花嫁修業でもしてくるんだな。最後にシェリル。我が妹よ。あちらの世界へ行って見聞を広めてから帰ってくるがよい。我が一族に栄光をもたらすため様々な経験をしてくるのだ。以上がこの事件の判決である。つまり全員有罪!これにて閉廷!」


「あ、ちなみに私もギルティとしてあちらの世界への流刑に処します。」

「ハルトさん。」

「お兄ちゃん。」

「ラインハルト様。」

「木村。」

「なんだいみんな?私の素晴らしさに気付いたのかい?」

『ふざけるなっ!』


こうして僕の裁判の判決は、結局今までどおりの生活に少し刺激を加えたものとなった。なんだかんだで木村のおかげでまたあの日々が帰ってくるのだ。

亜美がいて、シェリルがいて、ユナがいる。まあついでに木村もいるけど。

「おい秋人、私はついでではない。メインなのだよメイン。」

「ばっ、ばかな・・・なぜ僕の考えていることがわかった?」

「ふははははっ!図星かこの変態野郎め!顔がにやけておるわっ!私の素晴らしき判決によって得た元の生活を謳歌するためには当然ながら私への寿司の約束は果たしてもらうぞ?」

「ラインハルト様?」

「ん?なんだユナ、今は契約の真っ最中なのだが?」

「言い忘れていましたが、歪みの管理権はエギライズ家にあります。さきほどの裁判の判決に従い私たち3人は秋人の監視役としてあちらの世界に向かうこととしますけど、ラインハルト様にはなんの罪もございません。よって歪みを使用する理由がないためエギライズ家としてはラインハルト様はこちらに残ってもらいますからね。」

「ま、さか、そんなはずでは・・・」

そう言いながら木村は崩れ落ちた。

なんともその姿が哀愁ただよっている。


「じゃあね、お兄ちゃん。シェリルは秋くんを惚れさせるため頑張ってくるから。お兄ちゃんだって秋くんが義弟になったら嬉しいでしょ?」

おいおいシェリル、さらっと何言ってるんですか・・・

「ハルトさん、色々とありがとう。とりあえずあっちの世界に戻るね。仕事とか辞めちゃってるけど、もう一度生活をやり直してみる。そんで秋人が死んだらまたこっちに帰ってくるから。」

おいおい亜美、何をとんでもないこと言ってんの・・・

「ラインハルト様、落ち込まないでください。お約束されたお寿司ですが、その日くらいはお迎えにあがりますので、秋人からしっかりごちそうになってくださいね。」

おいおいユナ、勝手に契約しないでくれませんか?

「秋人よ、どうやらこの勝負、私の負けのようだな。」

「えっ?いつから勝負してたんですか?」

「貴様がここまでモテモテのM男だとは思わなかったよ。さすがにS属性を秘めた女性陣を虜にするそのスキルには私では太刀打ち出来ないようだ。」

なんだかとってもバカにされているような気がするのだが?

木村はゆっくりと立ち上がり僕に近づいてきた。

「秋人よ、あちらの世界での一ヶ月をこちらで過ごすのは耐え難いが、またすぐに会いに行くから楽しみにしておれ。」

「いや、別に気にしなくていいから。」

「冷たーい。秋人くん冷たいよー。」


というわけで僕はこっちの世界で4日ほど過ごした。

例の3人の女性陣は裁判の影響でギクシャクするかと思っていたが、以前のように普通に楽しそうに過ごしている。

僕はその風景を見てひとまず安心した。

そして元の世界に帰る時、僕と女性陣3人が一緒に行くことになった。

「それじゃ、お兄ちゃん、シェリルは行ってまいります。」

「ああ、気をつけてな。こっちのことは私に任せておけ。不本意ではあるがキンバリウム家を建て直してやろうではないか。」

やけに大人しい木村に違和感を覚えるけど、まあユナが歪みの使用許可を出さない限り木村には僕らの世界へ行く術はない。

ちょっと寂しそうな表情の木村にどう声をかけていいか迷うけど、まあ一ヶ月したらまた会うことになるのだ。特に心配する必要はないだろう。

「それじゃ、またな。寿司の時、ちゃんとユナに呼んでもらうから。そんときはみんなでゴハン食べよう。」

「ああ。楽しみにしているよ。気をつけてな、秋人。色んな意味で。」

「え?ちょっとそれどういうこと?」

「さあ、行きましょう秋人。どうせ大した意味なんてないんだから。そうでしょ?それじゃ、準備はいい?ここを通ったら空に出るから。」

そ、そうだった。けっこう高いところから落ちるんですよね?僕はチラッとユナを見た。

「わ、私が秋人を受け止めるから安心して。先に行って待ってるから。シェリルは亜美をお願いね。」

「ぶーぶー。シェリルだって秋くん受け止める役したいよー。」

「ほらほら、行くよ?」

そう言ってヴァンパイア2人は先に歪みに入って行った。

続いて僕と亜美も歪みをくぐり、異世界からのお別れとなったのだった。


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