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第十二章 それぞれの思い

第十二章 それぞれの思い


あたし、あっちの世界に行ってもちゃんと生活していけるのかなぁ?

食べ物ってどんなだろ?少なくともお寿司はもう食べらんないよね。

あーあ、こんなことならもっと好きなもの食べておくんだったな。

でもとりあえず苦労したけど家族への説明もちゃんと済ませたし、仕事も無理言って退職してきたし、することはちゃんと終わったかな?

あとは秋人にちゃんとお別れしとかなきゃね。あの人たちが来てからあまりちゃんと話とか出来なかったから、最後くらい、ね。


はあ、結局のところ、元の世界に帰らなければいけないのか。

私はもっとこちらの世界を堪能したかったのだがな。

空気はマズイが、食事は旨い。

そして何より安全である。

住民票という難題だけが残るが、それ以外は合格だ。

それにせっかく秋人という親友まで出来たのに、このような短い期間でお別れしなければならないとは、ああ無情。

あっ!しまったぞ!寿司だ、寿司を食してないぞ!先月は寿司の代わりに旅行となってしまったし、今月は秋人の給料日がまだではないか!ぬぬぬ、これは由々しき事態だ。

まだまだ先は長いと悠長に考えていた私の責任でもある。

こうなったら高級な寿司は諦めて、近場の寿司屋で手を打とう。

回らない寿司屋であり、カウンタさえあればよしとするか。

うん、そうしよう。

では早速秋人のところへ向かうとしよう。


短いような長いような、今までとまったく違う生活もこれで終わりか。

生まれてからずっと貴族として生きてきたが、こちらに来て居候の身となり、そしてバイトまでさせてもらった。今後味わうことの出来ない経験だな。せっかくバイトに慣れてきて、もうすぐキッチンにも入れてもらえそうだったのが少し残念だ。

私もシェリルのように料理を学び、秋人に食べさせてみたかったな。

それにしても秋人には随分と世話になってしまった。

一度とはいえ、血までごちそうになっちゃった。

あの味、ちょっと忘れられそうにないなぁ・・・

これで最後になっちゃうんだし、あと一度だけダメかな?

秋人に相談してみようっと。


ううぅ、正直に言うとシェリルは帰りたいけど帰りたくないのだ。

シェリルは秋くんともっと一緒にいたいのだ。

でもシェリルがわがまま言うとユナが困るし、お兄ちゃんはそれを利用してこっちに残ろうとするに決まってる。

そりゃあみんな残って今までみたいに楽しく過ごせたら一番いいけど、歪みの影響が必ず出てくるはず。

きっちゃんみたいなのがまだ来ないとも限らないし。

はぁ、やっぱり秋くんをシェリルの眷属魔にしちゃおっかなぁ。

そしたらシェリル、死ぬまで秋くんと一緒にいられるもん。

お兄ちゃんも喜ぶし、亜美ちゃんは・・・怒るかな?ユナもきっと怒るよね。

お別れは悲しいけど、最後にギュッてしてもらって、頭なでなでしてもらおう。

それくらいならいいよね?

最後だもん。秋くんが許してくれたらキスもしてもらっちゃおっと。


俺はこれからどうなるんだろうか。

元の世界に帰ったところでフュルフュール様に報告すればお怒りになられるだろう。

俺としたことがヴァンパイアごときに負け、さらに屈辱的な名で呼ばれることになろうとは。

なんとか一矢を報いたいところだが、シェリル様に逆らうことは許されぬ。

あのお方はきっとヴァンパイアなどではない。天使様だ。

出来ればこの俺を眷属魔として飼い慣らしていただけないものか。

それに比べシェリル様の兄と来たら、ド外道にもほどがある。

騙し討ちはするわ、田辺氏のお宅へ行かされ土下座というこの国伝統の謝り方をさせられるわ、これをすればすべてが許されると言っていたのにそれも嘘で、ケイサツという恐ろしい組織に追い回されるわ、あちらに帰ったらきっと抹殺してやる。

はぁ、とりあえずこの首の鎖を外してもらえないだろうか。

いつまで俺はここに正座していればいいのですか、シェリル様・・・


亜美、ユナ、シェリル、そして木村。みんなホントにいなくなっちゃうんだよな。

亜美は別として、そもそもあの3人は少し前までいなかったから、変わるのは亜美がいなくなることだけなんだけど、慣れてきたこのドタバタの生活が楽しく思えていたって改めて感じる。

たまに血を吸われてフラフラになるけど、あれはあれで、うん、なんだ、別に興奮してるわけじゃないぞ?経験したものにしか分からないダイナミックな感情が生まれるのだよ。今のところこの世界では僕といつぞやの酔っ払いのおっさんの2人だけしか味わった人間はいないのだけどね。

それにしても、いよいよ明日か。見送りは来なくていいって言われたけど、やっぱり行かなきゃな。

おっ、誰か来たようだ。


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