ついのすみか
少しだけ、ぼんやりとしてきた。それなりに効果があったのかもしれない。
握り締めたままの手に、そっと力を込める。反応はない。ユキはもう、眠ってしまったのだろうか。
寄り掛かってくれれば良いのにと思うけれど、背中に当たるソファの方が心地良いらしいのだ、ユキにとっては。仕方がない。骨張った貧相な身体より柔らかな背もたれの方が、ゆっくりと眠るには適している。
「……ねえ、ユキ?」
答えのない問いを、私は静かに口にした。
「私を、愛してる?」
真白なソファにもたれるユキの寝顔。白い笑顔。
「あのね、私も……」
空虚な問い掛け。一方的に埋める空白。
「私も、愛してるよ」
身勝手な愛情。護るべき感情。ユキは世界に一人なのだと、実感する。
安らかに眠るユキの額に口付けをした。大丈夫とは思うけれど、起こさないよう気を付けて。
余りの愛しさに、手放したくないと願ってしまった。叶わぬ願い。適わぬ関係。流れる時と共に込み上げる。
幸せな時間が長いほど、別れの時は辛くなる。知っている。判っている。理解しているはずなのに、逆らうことのかなわぬ想い。
ユキを、私だけのものにしたい。独占欲。愛情の、裏返し。
間違っているのかもしれない。私の感情以外は全て。ユキの感情以外の全てが。けれど。
「……う、ぅん……」
ほんの僅か、ユキが動いた。眠っているにもかかわらず、私の愛に応えるように。幸せそうな笑みを見せ、白いソファにふんわりと溶ける。ユキの髪も肌も存在も、全てが白に包まれて。
愛しいという感情は、柔らかな白に似ている。儚く力強く、そして何より、ユキに似ている。色付く前の純粋な白。穢れなき純白。ユキは、とても白い。とても白く、そしてとても、愛に似ていて。
今の私は、幸せだ。ユキと手を繋ぎ、ユキの寝顔を見詰め。溢れ出すユキの愛に包まれ、私も真白な愛になり。
愛しさを、抱き締める。
徐々に強くなる微睡み。包まれる柔らかな光。伝わるユキの微かな温もり、大きな愛。ユキと共に過ごせる今が、私にとっては永遠で。
出会わなければ良かったと、思ってしまったこともある。頭では理解していても、惹かれる想いは止められず。
愛に障害は付き物だ、なんて。いつだったか、虚しく笑ったことがある。思えば本当にその通りで、私は独り、笑ってしまった。深くゆっくりと呼吸する、ユキの笑顔を見詰めながら。
幾重にも立ちふさがる何もかもを、乗り越えられれば良かったものを。
ふっと、ユキの手が重くなる。力が抜けてしまったらしい。私はまだ温かいユキの手を握り、永遠を、夢想した。
もうすぐ手に入るはず。二人で過ごす、永遠の時間が。誰にも邪魔をされることなく、いつまでも一緒に。永久に、傍に。
ああ、瞼が重い。閉じる前にもう一度、ユキの姿を見詰めておこう。愛しいユキの姿を。私を包み込む、愛を。
遠く彼方に存在する、永遠が、私を手招く。
共に過ごす今を永遠に。
愛しいユキと、永遠を。