表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ついのすみか

作者: 戸雨 のる

 少しだけ、ぼんやりとしてきた。それなりに効果があったのかもしれない。

 握り締めたままの手に、そっと力を込める。反応はない。ユキはもう、眠ってしまったのだろうか。

 寄り掛かってくれれば良いのにと思うけれど、背中に当たるソファの方が心地良いらしいのだ、ユキにとっては。仕方がない。骨張った貧相な身体より柔らかな背もたれの方が、ゆっくりと眠るには適している。

「……ねえ、ユキ?」

 答えのない問いを、私は静かに口にした。

「私を、愛してる?」

 真白なソファにもたれるユキの寝顔。白い笑顔。

「あのね、私も……」

 空虚な問い掛け。一方的に埋める空白。

「私も、愛してるよ」

 身勝手な愛情。護るべき感情。ユキは世界に一人なのだと、実感する。

 安らかに眠るユキの額に口付けをした。大丈夫とは思うけれど、起こさないよう気を付けて。

 余りの愛しさに、手放したくないと願ってしまった。叶わぬ願い。適わぬ関係。流れる時と共に込み上げる。

 幸せな時間が長いほど、別れの時は辛くなる。知っている。判っている。理解しているはずなのに、逆らうことのかなわぬ想い。

 ユキを、私だけのものにしたい。独占欲。愛情の、裏返し。

 間違っているのかもしれない。私の感情以外は全て。ユキの感情以外の全てが。けれど。

「……う、ぅん……」

 ほんの僅か、ユキが動いた。眠っているにもかかわらず、私の愛に応えるように。幸せそうな笑みを見せ、白いソファにふんわりと溶ける。ユキの髪も肌も存在も、全てが白に包まれて。

 愛しいという感情は、柔らかな白に似ている。儚く力強く、そして何より、ユキに似ている。色付く前の純粋な白。穢れなき純白。ユキは、とても白い。とても白く、そしてとても、愛に似ていて。

 今の私は、幸せだ。ユキと手を繋ぎ、ユキの寝顔を見詰め。溢れ出すユキの愛に包まれ、私も真白な愛になり。

 愛しさを、抱き締める。

 徐々に強くなる微睡み。包まれる柔らかな光。伝わるユキの微かな温もり、大きな愛。ユキと共に過ごせる今が、私にとっては永遠で。

 出会わなければ良かったと、思ってしまったこともある。頭では理解していても、惹かれる想いは止められず。

 愛に障害は付き物だ、なんて。いつだったか、虚しく笑ったことがある。思えば本当にその通りで、私は独り、笑ってしまった。深くゆっくりと呼吸する、ユキの笑顔を見詰めながら。

 幾重にも立ちふさがる何もかもを、乗り越えられれば良かったものを。

 ふっと、ユキの手が重くなる。力が抜けてしまったらしい。私はまだ温かいユキの手を握り、永遠を、夢想した。

 もうすぐ手に入るはず。二人で過ごす、永遠の時間が。誰にも邪魔をされることなく、いつまでも一緒に。永久に、傍に。

 ああ、瞼が重い。閉じる前にもう一度、ユキの姿を見詰めておこう。愛しいユキの姿を。私を包み込む、愛を。

 遠く彼方に存在する、永遠が、私を手招く。

 共に過ごす今を永遠に。

 愛しいユキと、永遠を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ