孤独の音
「やめてくれ。もうやめてくれ。」
つい1分くらい前から、恐ろしいほど甲高く、悲しみと恐怖が入り乱れた子供の悲鳴が聞こえる。
まるで、誰かを呼んでいるような、助けを求めているような声だ。
さっきまで僕はベッドの中で静かに本を読んでいたはずなのに、
いつの間にか夜空よりも深い暗闇と、つんざく悲鳴の中に放り出されてしまったようだ。
「やめてくれ。誰が叫んでいるんだ。もう聞きたくないんだ。」
僕は必死に耳を塞ぎ、声から逃れようとした。
しかしその声は聞こえなくなるどころか、頭の中で反響し、大きな渦のように僕を襲ってくる。
僕は耳を塞ぐ両手の力をよりいっそう強くする。
「やめてくれ。聞きたくないよ。ここはどこなの??なんで真っ暗なの??誰が泣いてるの??」
どこまでも追ってくる悲鳴をふりほどくように、僕は首を激しく振った。
ずっと首を振っていると、一瞬視界に光がさすところがあった。
僕は、首を振るのをやめ、その光を探した。
そして僕はぼやーっとした黄色い光を見つけた。
そのとき僕はやっと気付いた。
「僕は目をつぶっていたのか。」
僕はすぐに目を開けた。真っ暗な世界から解放され、月の光が窓からさしている。
僕はしばらく悲鳴のことも忘れ、ベッドの上で月を眺めていた。
誰がどんなに悲しい思いをしても、決して表情を変えない月。
僕がこんなにも苦しんでいるのに、ただ僕を見下ろしているだけ。
僕の両親のように、僕の苦痛を遠くから見て見ぬふりをしてるんだ。
またあの悲鳴が頭の中に流れこんで来た。
「もうやめろよ。痛いよ。頭が痛いよ。」
月から目を離し、ふと視線を落とすと、窓に泣きながら必死に耳を塞ぐ少年を見た。
そのとき僕は、叫んでいるのは僕だと気付いた。