脱走の発想
「――以上で、ホームルームを終わります。号令ー」
いつもの様にホームルームは終了し、また例に漏れず授業へ移行する。
「羽守。俺と付き合ってくれ」
――こんな、バカの意味不明な発言さえ無ければ。
「……はあ?」
『朝っぱらから何を言っているんだこいつは』的な意味を含ませた視線を投げ付けた先には、超が付くほど真剣な表情をした男子生徒が立っていた。
「……あ。間違えた。えっと、羽守。俺"に"付き合ってくれ!」
「……日本語は一字間違えるだけで致命傷になりかねないから、気を付けような?」
皮肉と溜め息を混じえて、超が付くほどのバカでその名を轟かせる男、高須日光輝へと言葉を返す。
「ああ。そうだな。……それより、だ」
「堪えてねえのかよ」
「?」
「ああ……。何でもない。早く続きを話せよ」
あそこまであからさまな皮肉を浴びせられたにも関わらず、リアクションはおろか気付きさえしない光輝。流石バカである。これぞ馬鹿の面目躍如であろう。
「うむ。頼みというのは他でもない……」
「他でもない?」
「……一緒に学校をサボろう」
「じゃあな。次、生物だから――」
――やはり馬鹿の考える事は馬鹿な
事だった。
「って、おおい!? なにさらっと立ち去ろうとしてんの!?」
次の移動教室の為の準備を整え、余裕を持って移動しようとしていた俺を必死になって呼び止める光輝。遅刻しないように行動する優等生の敵にでもなりたいのだろうか、こいつは。
「なんだよ……。次は最も移動距離の長い事で校内ギネスにも載っている、生物の授業だぞ? 邪魔しないでくれ」
「いや、それはお前と同じクラスであるところの俺も同じだから。ああ……もう。何て言えば付き合ってくれんだ……」
馬鹿の光輝には分かるまい。俺をサボる気にさせるやり方も、最後の台詞だけが周りに聞かれてしまっていた場合に流れてしまう、最悪の噂についても。
「諦めろ……。お前に俺をその気にさせる事は出来ないよ。さあ、観念して授業に――」
「俺の可愛いアヤに関することなんだが……」
「今の時間に生徒玄関を使って正門から出ると確実にバレる。そうなったら俺らは二人仲良く"大魔神の間"行きだ……。少し作戦を練ろう」
この脱走は絶対に成功させなければならない。これは名誉ある脱走であっても、決して不名誉なサボりなどではない。光輝の大切な家族の為にも。
こうして、俺らの大胆かつ崇高な脱走劇は幕を開けた――。
ここから前編、中編、後編の三つに分けて書いていきたいと思います。
それぞれのボリュームはあまり期待できないと思われますが…
なんとか頑張らせて頂きますので、よろしくお願いいたします!