新たな騒乱、開幕
「う、うーん……」
小鳥のさえずる音、窓から射し込む、暖かな陽光。
朝特有の心地よい感覚と共に、緩やかに意識が覚醒していく。
「ふわぁあ……」
先ずはベッドの中で、欠伸と共に大きな伸びを一つ。それから、ベッドの上に手を着き――
むにゅ。
「……」
手が、ベッドとは違う感触を捉えた。それは微かな温もりを持っていて……
「……なにやってんだよ、沙菜」
◆◇◆◇
「……で、要するに『朝起きたら沙菜ちゃんが隣で寝ていた』って事になるんだな?」
「まあ、そうなるな」
「ぐわー!!まじ羨ましいんですけどー!?」
比較的静かな朝の学校。まだ生徒も疎らな教室で、俺は他クラスの友人笠井と、今朝俺が体験した事の顛末について話していた。
「佐野から聞いたけどさ、沙菜ちゃんって相当可愛いんだろ?」
「まあ……それなりに整ってるな」
「くっそー!俺、未だに沙菜ちゃん見たこと無いんだよなぁ……。そのうち、お前の家に遊びに行っても良いか?」
「別に構わないけど……」
今朝俺が体験した事の顛末……。それは至って単純で、笠井の言うとおり、俺が起きると沙菜が隣で寝ていたということ。
……そう。沙菜の服装が裸ワイシャツでなければ、なんの変てつも無い出来事ではある。
「よっし。それなら、遊びに行くときに連絡するからよ」
「おう」
笠井はそれだけ言って、自分のクラスへと戻って行った。その足取りが心なしか軽いように見えるのは気のせいではないだろう。
「さて……。俺もそろそろ授業の準備をするか」
笠井を見送り、自分の作業へと移る。一時限目は、世界史。その準備をしようと、自分の鞄へと手を伸ばし――
「おはよう。羽守くん……いや、ムッツリロリコン」
――虚空で、凍結。
一番聞かれちゃまずい奴に、話を聞かれてしまっていたようだ。
……朝っぱらからここまで毒を吐ける人間といえば、該当するのはアイツしかいない。
俺は、なけなしの勇気を振り絞って声の聞こえた方……真後ろを振り向いた。