天使とにゅーよく
結局、沙菜の抱き着き(沙菜曰く『おにいちゃんパワー充電』)はたっぷり十分も続いた。
となると俺は、靴も脱がずに十分も玄関に突っ立っていたことになる。というか、抱き着く沙菜もよく飽きなかったものだ。
「……それで、沙菜」
「んー?」
「……なんでお前も入って来てるんだ?」
そして、今は入浴タイムである。
無論、俺は一人で入るつもりだったのだが、何故か途中で沙菜が乱入。その本人と言えば今は、浴槽に浸かりながら気持ち良さそうに目を閉じていた。
「なんでって……きょーだいなんだから、一緒にお風呂入るくらい普通でしょ?」
俺の疑問をバッサリと切り捨てる沙菜。逆に、何がおかしいのか分かっていない様子で首を傾げる始末。
「いや……そうは言っても、だな」
沙菜はもう小学4年生だ。この年にもなって兄と一緒に風呂に入るというのも……その、色々とアレだろう。
だが、その旨を伝えると沙菜は、途端に膨れっ面になった。
「いーじゃんいーじゃん。いつも一緒に入ってるわけじゃないんだしー」
浴槽の縁に顎を乗せ、じとーっと、非難の目をこちらに向ける沙菜。だがしかし、その抗議は全くの無意味だ。その姿に迫力は皆無に等しく、逆に可愛らしいくらいだし。
……けどまあ、今日くらいはその可愛いさに免じて許してあげよう。未だ睨み付けてくる沙菜に苦笑しながら、俺はそう結論付けた。
「……はぁ。……仕方無い、今日だけだぞ?」
「ほんと!? やったー!」
浴槽の中で、沙菜は大袈裟にも万歳をしてみせた。何故ここまで一緒に入りたがるのかは謎だったが、それはとりあえず置いておこう。
「……つかお前、体洗ってないだろ」
「それなら心配ないよー。おにいちゃんが帰ってくる前にキレイに洗ったし」
「……なんかズレてないか、それ」
――たまには二人で風呂に入るのも、悪くないのだから。