明、記憶喪失になる!
こんにちわ、維月です。
『妖幻抄―10章―』のお届けです。
はい、今回も、なかなかヘビーです。(汗)
明、記憶喪失で、データ初期化…
氷雨、大変ですよ。
(前回の重さにもめげず)でも、まあ、楽しんで読んでくださいな♪
目が覚めて、いきなり『お前は誰だ?』これは、ひどいと俺は思う。
目を覚ました明は、俺のことは勿論、自分の名前さえ、思い出せない、『記憶喪失』になっていた。
「なっ、なんでついてくるんだ、お前は」
明は、困惑顔で、氷雨を見る。
「お前こそ、なんで逃げんだよ明」
「だっ、だってそれは…お前が、ついてくるからだっ」
「そのまんまじゃねーかよっ」
思わず、つっこむ氷雨。
「う、うるさい!ついてくるなよっ」
そんな様な会話ばかりを繰りかえし、陽は、既に中天にさしかかり、もう昼だ。
「やだね、ついてくぞ」
「しつこい奴だなっ、蹴るぞ!」
言ったとおりに蹴りが飛んでくるが、軽く翻してやり過ごす。
明が、目を覚ましたのは7日前。
心配で、枕元に伏せてたってのに、目が覚めるなり平手をくらい、今の、このあり様ってわけだ。
この村の族長の、明のじいさんにはもう、説明済みだが、にわかに信じたようには見えなかった。
さすが、この村の、族長といったところか。
物思いにふけっている間に、氷雨は、明を見失ってしまっていた。
「あっ、くそぅ…見失っちまった!」
そのころ明は、ナンパされていた。
「うるさいっ、用がないなら話しかけるなっ」
「なぁ、そんなに連れなくしなくたって、少し話そうって、言っただけだぜ?」
「なんの話だ、あたしは忙しいんだ、手短に話せ」
明は肩を抱く、男の手の甲を抓りながら言った。
「君、カワイイよなぁ…今日は、一人なんだね」
「今日は?あたしは、いつも一人だぞ。ヘンな奴だな」
「ふーん、じゃあ…」
「じゃあ、なんだって?」
しめた、と内心舌なめずりをした瞬間、後ろでした声に、ナンパ男は一瞬にして凍りついた。
「え゛?」
「ヒトの女に手ぇだすたぁ、いい度胸じゃねぇか…え?」
「ひえ、あ、あれぇ?」
ナンパ男は、コソコソと後ずさる。
「失せな…」
「ひ――‐っ、すんませーん!」
睨みを利かせる氷雨に屈したのか、ナンパ男は、一目散に逃げていった。
「フンっ、バーカ!」
氷雨は、小石を蹴り上げて鼻を鳴らす。
「……。」
ナンパ男が逃げた後、明は、何も言わずに、食い入るように、氷雨を見つめた。
「な、なんだ…機嫌、悪くさせちまったのか?」
耐えきれなくなった氷雨が、おずおずと尋ねると、明は氷雨に微笑んだ。
「お前、強いんだな…あたし、強い男が好きだ」
「なっ、な、明!?」
抱きついてくる明に、氷雨は慌てる。
往来のど真ん中での情事は、する気にはなれない。
とにかく、場所を移動しなければ、と思うのだが、言葉が出てこない。
「それに、お前…いいオトコだ」
「へ?」
うっとりと言う明に、氷雨は一瞬拍子抜けした。
記憶がないと、こうも人格が違うのかと少なからず思った。
「決めた!あたし、お前といることにするっ、名は、なんていうんだ?あたしは…」
(あれ?あたしの、名前…は)
思い出そうとするが、霏がかかったように、よく分からない。
そうする度に、頭が痛んだ。
「俺は氷雨、そしてお前の名前は、明だ。早く思い出せよ」
「あたしを、知っていたのか?まぁいい、よろしく、氷雨っ」
「お…おう」
記憶喪失7日目にして、懐かせるのに成功。
この先が思いやられて、氷雨は、額を押さえたのだった。