序幕 ~武獲りの翁~
格好良い主人公に憧れて始めました!
色んな昔話や童話などの登場人物を奇妙に改変しながら描いていきます。なお、物語の原型が殆ど残っていないのはご勘弁を(笑)
あと、主人公があんまり格好良く見えないかもしれませんがその場合もお見逃し下さいw
では、本編へどうぞ!
「はっ、はっ……!」
竹林を駆けるは一人の少女。後を追う機械仕掛けの人形は彼女が間を潜り抜ける竹の門を薙ぎ倒しながら突き進む。
幸い竹の門は折られつつもその機械人形の速さを確実に抑えており、少女に逃げ切る余地を与えていた。
しかし時間の問題。少女にも体力の限界がある。やがて力尽きた時が最後、あの機械人形達に忽ち捕縛されてしまうだろう。
見出せない活路。少女は半ば諦めかけていた。
助けなどある筈もない。希望などある筈もない。それでも彼女が僅かな意志を保ちながら逃げ続けるのは、故郷に待つ苦しみを思い出すからであろう。彼女は希望を求めるというより、絶望から逃げる様に走っているのだ。
「嫌だ……絶対に、私は戻らない!」
意味を持たない叫びに機械人形は何も答えない。藪に裂かれた痛々しい生傷をその足に刻みながら、今まさに少女は力尽きその足は主人を裏切る様にもつれ倒れようとしていた。
体がぐらりと前に倒れる。
もう駄目だ……
その時、全てを諦めその目に溜めこんだ涙を外に追い出そうとした彼女の視界には思わぬ光景が飛び込んできた。
竹がまるで「それ」を避けるかのように開けた空間。その中央に立つ奇妙な人影。
乱した着物に身を包み、ぼろい草履を履きながら、腰に刀を一本ぶら下げ、じっとりとした空気を纏うその男。何より印象的なのは、顔に掲げた奇妙な「能面」。
それは「翁」。
翁の面を被った男は倒れこむようにすれ違う少女に一瞥をくれると、激しく音を立てながら迫る機械人形に視線を移した。
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鬼が住まう竹林。
其処に『武獲りの翁』というものありけり。
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「あァ……うるせェ客人だ」
翁の面の下からは若い男の声が漏れる。
しまった、一般人を巻き込んでしまったと、少女はひやりと肝を冷やして今更ながら忠告する。
早く逃げろ
その言葉を少女が発する暇もなく、翁の面を被った男は腰の刀に手を触れた。
ヒュッ……
それは例えるならばそんな音、いや音さえしなかったかもしれない。
カコン、と竹が触れ合い乾いた音を立てるのを聞きながら、少女が見たもの
それは空を舞う、綺麗に割られた竹と機械人形の欠片だった。
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これはとある噂である。
昔あるところにとても強くて恐ろしい鬼がおりました。
鬼はその荒々しく強大な力故に『武鬼』と呼ばれて恐れられたそうな。
人々は武鬼に怯えながら過ごしておりましたが、ある日武鬼が討ちとられる日が来たのです。
翁の面で顔を隠し、その目にも止まらぬ速さの居合で武鬼の首を獲った剣士。
人々は彼を讃えて、名も名乗らずに去っていった彼を
『武獲りの翁』と呼びました。
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「堅ぇなこりゃ……刃に悪ぃ。また役にも立たねぇもんを斬っちまった」
切り拓かれた竹の領域。
その中心で、積み重ねられた鉄くずと綺麗に切り揃えた竹を足場に男はその不快感を顕わにしながら呟いた。
「…………貴方は……まさか」
村で暮らしていた時に、村人達に話して貰った一つの伝説。その言葉だけの光景にぴったりと当てはまる様なその男の姿に、少女はその名を導き出した。
「武獲りの……翁……?」
男は腰を抜かして見上げる少女を見下ろし、深いため息を漏らしながらそれに答える。
「……まぁ、そう呼ばれはするが……お前ェは何なんだ?」
少女は出会う。とある一人の剣士に。
これが奇妙な冒険の始まりを告げる、不思議で奇怪な出会いだった。
主人公は「武獲りの翁」、そう、「竹取の翁」です。でもお爺さんじゃないですよ(笑)
彼がこれから様々な戦いやらなんやらを繰り広げて行きます!
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