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催眠おじさんのダンジョン無双~「俺は最強」と思い込んだら、本当に最強になってしまった~   作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第5話 死んだニートが、実家へ帰ってきました


「動くな」


 助けた女から銃を向けられた。

 短い黒髪と鋭い目つきがよく似合う美人だが、残念ながら銃口は俺の胸を狙っている。



「人間は、ゴブリンを生で食べない」

「最近は多様性の時代だぞ」

「そういう問題ではない」


 もっとも、弾倉が空なのは分かっている。俺は刺激しないよう両手を上げ、羽倉司と名乗った。


 女は雨宮澪。元自衛官らしい。



「羽倉司は、一か月前に死亡認定されている」

「……一か月前?」


 目の前に突き付けられたスマホ端末の画面を確認する。

 表示されている日付を見るかぎり、たしかに迷宮へ入った日から三十日以上が経過していた。


(行政の仕事、こういう時だけ早くないか?)


 澪によれば、正面から帰還すると、異変が無いかどうかを調べる《帰還者審査》を受けることになるらしい。下半身を再生し、ゴブリンを生で食べた俺は、数か月どころか無期限で隔離されかねない。



「じゃあ、帰還しなかったことにしよう」

「迷いがなさすぎる」

「都合の悪いことからは、三十六年間逃げ続けてきたからな」


 澪は呆れながらも、古い資材搬出口へ案内してくれた。


 久しぶりの地上には、コンビニの明かりも、自動車の音もあった。澪の端末を借りて自分の名前を検索すると、失禁と脱糞の切り抜き動画が大量に表示される。


「死者への敬意はどこへ行った」

「最後の映像が強烈すぎたんだろう」

「慰める気がないなら黙ってくれ」


 澪から上着と帽子を借り、深夜の実家へ向かった。



「まぁ、そうなるよな……」


 玄関脇には白い花が置かれている。


 窓から中をのぞくと、小柄な母が三人分の食器を並べていた。白髪交じりの父は、古い眼鏡をかけたまま俺の死亡通知書を見つめている。


 その横には、捜索費用の請求書まで置かれていた。


(死んでも迷惑をかけるのか、俺は)


 帰るのが怖くなった。

 それでも、部屋の前へ毎日食事を運んでくれた母を思い出し、玄関を開けた。



「ただいま」


 母が俺を見て立ち尽くす。

 父は傘を構えた。


「司の姿をした何かかもしれない」

「本人だよ。昔、父さんの財布から金を抜いてゲームを買った。ばれた時は近所の猫が持っていったと言い張った」


「お前だったのか」

「あと、母さんの唐揚げの日だけは、扉の前で待ってた。それから押し入れの奥に父さん秘蔵のエロ本が――」


「最後は言わなくていい」


 父が傘を下ろした。

 母が駆け寄り、俺の身体を強く抱きしめる。



「生きてた……本当に、生きてた……」


 何も成し遂げていない。

 仲間を置いて逃げ、全国へ失態を晒し、最弱のスライムに食われた。


 それでも母は泣き、父の手も震えている。


(俺が生きているだけで、喜んでくれる人がいるのか)


 その事実は、どんな催眠よりも信じにくかった。



 その後、澪を交えて今後を話し合った。


 俺が生存を公表すれば隔離される。

 死亡者のままでは身分証も口座も使えず、モンスター素材も売れない。


「素材は澪に渡して売ってもらえば、どうにかなるかもしれない」


 俺の提案に、父は眉をひそめた。


「また迷宮へ戻るつもりか」

「地上だとなんだか身体が重いんだよね。虚素を補給しないと、人間の形を保てなくなるかもしれないし」


 それに、ようやく俺にも社会復帰できるチャンスが巡ってきたんだし。


「まぁ家に引きこもるのも、ダンジョンにこもるのも大して変わらなかったし」

「意外と楽観的なんだな」

「現実逃避は得意分野なんだよ」


 そう返すと、澪は小さく笑った。



 翌朝、俺は再び大宮第一迷宮へ向かった。


「さぁーて、腹が減ったし今日もモンスターを食べますかぁ」


 その日、匿名掲示板に奇妙な書き込みが投稿された。


『大宮第一迷宮で、死んだはずの失禁おじさんを見た』


『しかも生でゴブリン食ってたぞ』


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