プロローグ:不在の理論について
【前書き:閲覧注意】
本作は、救いのない悲劇を描いた物語です。
物語の中に、家庭内での差別、ネグレクト、および学校内でのいじめといった非常に重く、ショッキングな描写が含まれています。
精神的に不安定な方、または希望のある物語を求めている方は、閲覧をお控えいただくことを強くお勧めします。
ここに記されているのは、一人の少年の魂が削り取られていく記録です。最後まで付き添う覚悟のある方のみ、ページをめくってください。
【作者より】
愛とは、常に「光」の下で語られるものだと思っていました。
しかし、光が強すぎれば、その下にある影は決して救われることはありません。
この物語の主人公・エドは、哲学の言葉を武器に、自分を殺そうとする世界と戦い続けました。
彼が最後に見つけた答えが、皆様の心にどのような「傷」を残すのか。
愛することと、消えること。
その境界線に立つ一人の少年の声を、どうか聞き届けてください。
アリストテレスはかつて、人間は「社会的動物」であり、他者との関わりの中で初めて完成されると説いた。ならば、肉体はそこに存在しながら、形而上学的に「存在しないもの」として扱われる人間はどうなるのだろうか。
僕の名は、言葉(こと葉)エド。十三歳の若さで、僕は上諏訪中学校の教科書には載っていない一つの真理を学んでしまった。――家族とは帰る場所ではなく、自分以外の全員が主役を演じる舞台であり、僕はそこに招かれざる唯一の観客であるということだ。
「エド、そこへ座るな。そこはあかりの席だ。フルートのコンクールで優勝したばかりなんだ。彼女には快適な背もたれが必要なんだよ」
父の声は平坦で、八ヶ岳の頂にこびりつく氷のように冷たかった。
僕は何も言わずに立ち上がる。この「拒絶」という名の重力には、もう慣れっこだった。
テーブルの向こう側では、あかりが冬の雪さえ溶かしてしまいそうな眩しい笑顔で座っている。彼女は「卓越性」の体現者だ。最高級の磁器の皿、最も柔らかい肉、そして僕には決して向けられることのない誇らしげな眼差しを独占している。
「エドくん、どうして食べないの? お母さんの料理、口に合わない?」
あかりが純粋なトーンで尋ねる。その優しさが、今の僕には何よりも残酷だった。彼女はあまりに眩しすぎて、自分の弟が飢えていることに気づかない。胃袋ではなく、存在を認められるという空腹に。
「空気だけでお腹がいっぱいなんだよ、あかり」僕は低く答えた。
学校でも、僕の名はただの脚注に過ぎない。
「あかりの不気味な弟」「クラス1-Bの疫病神」。僕は廊下を亡霊のように歩く。ヘラクレイトスは「万物は流転する」と言ったが、僕にとっての時間だけは、静止した絶望の底で凍りついていた。
諏訪の青い空を見上げながら、僕は時折考える。もし今日、僕が消えたとしたら、彼らの心に穴は開くのだろうか。それとも、ようやく疫病神という影が消え、一点の曇りもない太陽だけが残ることに、彼らは安堵するのだろうか。
愛という言葉は、僕にとって、とうの昔に死に絶えたギリシャ神話の夢想でしかない。残されているのは、僕が息を止めることを望んでいる家族の中で、それでも肺を動かし続けるという苦痛な闘争だけだ。
本作をお読みいただきありがとうございます。
この物語は、眩しすぎる「光」の傍らで、誰にも気づかれずに消えていく「影」の記録です。十三歳のエドが見つめる世界は、冷たく、そしてあまりに静かです。彼が抱く孤独の深さを、共に感じていただければ幸いです。




