AI小説に良くあるシゴデキ書類完璧主人公が去った後の文官達の愚痴
最近、よく見かけるAI小説のシゴデキ主人公が去った後、国や領地の経営が上手く行かなくなって終わる話が多いので「そんな訳ねーじゃん」と思ったので、残された文官達の気持ちになって書いてみました。
よろしくお願いします。
少し前に殿下の仕事を肩代わりしていた婚約者の侯爵令嬢が、自分の実務能力を認めてくれない殿下を見限り、婚約破棄をして王宮を去った。
隣国の使節団が我が国を訪問中に、宰相閣下にその手腕を認められていた侯爵令嬢は、婚約破棄後に宰相閣下に求められ隣国へと渡った。
王宮に残されたのは、今までと全く違う方法に変更された書類仕事やそれに付随する業務等。引き継ぎも無く混乱する文官達だけ。
それでも仕事は止まらない。
俺は王宮に勤める文官のグレン・サハール、下町にある隠れ家的な居酒屋に来ている。仕事終わりはいつも同僚のデリックと飲んでいた。
「おーお疲れ〜」
「お疲れ。何とか仕事が回せるように回復したな。これでやっと家に帰れる」
先ずは、ビールを頼む。
「あ〜も〜俺達、何日家に帰ってない?」
「三週間かな?…妻には一応、手紙で連絡はしてたから着替えとか差し入れてくれてマジ助かった」
デリックは妻子持ちだ。家に帰れないのは辛かっただろうな。
「か〜良いよな、奥さんいる奴は。俺なんて着替えを差し入れてくれる人なんて居ないからさ〜。ランドリーメイドに頼み込んで洗ってもらったよ。めっちゃ嫌な顔されたぜ」
「すまんな。俺が妻にお前の分も着替え頼めば良かったな」
「良いって。いくら友人とは言え、男の着替えを頼むのは奥さんに申し訳ないよ」
ビールがテーブルに届いたので先ずは一口、喉を潤す。
「まー原因のあの人はさ、今頃、隣国の宰相閣下の所でチヤホヤされてんだろ?何かムカつくよな。散々引っ掻き回しておいて、引き継ぎもしないで辞めるとかさ」
「だよな。いくら元婚約者の殿下が『引き継ぎは不要』って言ったからって、俺達が引き継ぎをって言っても『殿下が不要とおっしゃいましたから』とか何とか言って教えてくれなかったしな」
「自分は分かってて、効率よく仕事をしてたかも知れないけどよ。勝手に手順や色々変えてくれちゃってさ。帳簿なんて意味不だったぞ」
「確か効率が悪いとか言って改編してたな。独自な記載方法で解読するの大変だった」
思わずテーブルにダンッと手を叩きつけてしまった。
「ひっでーよな」
「まったくだ。殿下が仕事しないから押し付けたのか、何だか知らないけどね。仕事沢山抱えてるから手伝おうと思って声を掛けたら『殿下の代わりは、わたくしがしなければ』とか言って渡してくれなくて」
「それで夜中まで仕事して、目の下にクマ作ってさ。まるで、俺達が仕事しないで押し付けてるみたいじゃん。回りからもさ、そーゆー目で見られるしよ〜」
「俺、前に別部署の文官に言われたよ『貴方の部署は良いですね。優秀な方がいて。仕事しなくてもお給料貰えるんですから』ってね」
「あの人、侯爵令嬢だっけ?下級貴族の俺達じゃあ下手な事言えなかったしな。自分一人で何でも出来ますって、どんどん自分から仕事抱え込んでさ」
「ああ。俺達の言う事なんて何一つ聞いてくれなかったよね。俺が一番悔しかったのは隣国の使節団が来た時だよ。無茶な予算編成に日程。どれだけ財務課や庶務課に頭下げたか。思い出したくもない」
「あ〜あれね。あの人、自分一人で準備しましたみたいな顔してたけど、あの人の舞台が上手く行くように、俺達が水面下でどれだけ苦労したか」
「一番困ったのは、隣国の文化に合わせる為にって急遽、晩餐の肉料理を牛から羊に変更した時だったよ。当日の昼に言い出すんだからね」
「この国じゃあ、羊は食わねえっての。だから、羊を飼ってる農家に頭を下げて無理に譲ってもらったよな。高かったよ、あの羊」
「まあ、そのお陰で使節団にいた宰相閣下に、侯爵令嬢は見初められた訳だし」
「正直、あの人が居なくなってくれて良かったよ。あの人が居ると部屋の空気が悪くて悪くて、居心地最悪だったし」
「それは同意するよ。まあ、あの人のやった事で一つだけ褒めるとしたら、申請書の書式を統一してくれた事くらいかな?」
「あー、それは分かる。今までバラバラな申請書で読むだけで大変だったもんな」
ビールのおかわりを注文する。
「そう言えば、あの人が隣国に渡って向こうで言ってるらしいんだけど」
「なんて?」
「『わたくしが居なくなったら、あの国は時を待たずして崩壊するでしょう』だって」
「あ〜っはっはっは。おっかし〜っ。んな訳ねえって。あの人が来る前もちゃんと王国の行政は機能してたんだからよ。一人抜けただけで潰れる様な国なら、もっと早くに潰れてんよ」
「どれだけ俺達文官を馬鹿にしているのかな」
「まあ、いいじゃん。俺達の手であの人が引っ掻き回した仕事は無事修復できたし、引き継ぎ書も作成したし。誰が辞めても休んでも仕事を回せるよ」
「明日から定時出社の定時退社できると良いな」
「残業は少しあるかもだけど。休みも暫く取れてなかったし、まとめて取って旅行でも行くかな。温泉とか良いな」
「俺は家族とゆっくりしたいよ。妻にも心配かけたしね。よく離婚されなかったと思うよ。頑張ったよな俺達」
「だな。お疲れデリック」
「ああ。お疲れグレン」
ビールで乾杯をする。
仕事終わりのビールは美味いが、今日はまた格別だ。
やっとこっちの国の色々が片付いたんだから、隣国に渡った侯爵令嬢が向こうでやらかして、こっちに迷惑を掛けて来ない事を祈る。
この後も少し仕事の話して今日はお開きにした。
デリックとは店の前で別れた。デリックは小走りで帰って行って。久しぶりに家に帰れるのに、飲みに誘って悪かったな。また、今度デリックの奥さんにお菓子でも差し入れるか。
気持ち良く酔って、三週間ぶりの我が家に向かう。こう言う時、家に待ってくれてる人がいないのは寂しいなあ。
「俺も結婚するかあ?…相手がいね〜けどな!」
そんな俺の背中を月が照らしていた。
Fin
最後まで読んで頂きありがとうございます。




