表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/22

第9話「偽装婚約者、始動!」

 カイルの宣言の翌日、リリアは半ば強引に、あの小さな小屋から領主館の一室へと住まいを移された。


「ここが、今日から君の部屋だ」


 ロウェンに案内されたのは、陽当たりの良い、広々とした部屋だった。


 簡素ながらも上質な家具が揃えられ、窓からは自分が育てたハーブ園が見える。


「こ、こんな広いお部屋、私には勿体無いです!」


「領主様の『婚約者』殿が、あんな小屋に住んでいては恰好がつかないでしょう」


 ロウェンは楽しそうに笑うと、「何かあれば、遠慮なく侍女に」と言い残して去っていった。


 こうして、リリアの『婚約者』としての特訓(?)の日々が始まった。


 まず、最大の難関は食事だった。


 カイルと同じテーブルで、向かい合って食事をとる。


 ただそれだけなのに、緊張で味がほとんどしない。


「……食わないのか」


 カイルにじっと見つめられ、リリアは慌ててスープを口に運ぶ。


「い、いただきます!」


 そのぎこちない様子に、カイルはふいと視線をそらし、気づかれないように小さく口元を緩めた。


 次に、獣人族の習慣や、領主の婚約者としての立ち居振る舞いを覚える必要があった。


 教えてくれるのは、主にロウェンや館の侍女たちだ。


「リリア様、領主様をお呼びになる際は『カイル』と。様付けは他人行儀に聞こえます」


「ええっ!? そ、そんな恐れ多い……」


「大丈夫です。領主様もそれを望んでおいでですから」


 侍女たちに悪戯っぽく笑われ、リリアは顔を真っ赤にする。


 慣れないことばかりで失敗も多い。


 格式ばった挨拶をしようとして舌を噛んだり、カイルの隣を歩くときに緊張で足がもつれたり。


 ドタバタの毎日だったが、館の誰もがリリアを温かく見守り、サポートしてくれた。


 そして何より、カイル自身が、彼なりのやり方でリリアを気遣っているのが伝わってきた。


 彼女が夜遅くまで勉強していると知れば、そっと温かいハーブティーを部屋の前に置いていく。


 彼女が歩きやすいようにと、館の通路の段差を修繕させる。


 言葉にはしないが、その行動の一つ一つに、不器用な優しさが滲み出ていた。


 そんな彼の気遣いに触れるたび、リリアの心は少しずつ動かされていった。


 最初はただの「偽装」のはずだった。


 彼に迷惑をかけないように、しっかり演じなければ、と。


 でも、日に日に、カイルの隣にいることが、当たり前のように心地よくなっていく自分に気づく。


 一方、カイルもまた、リリアの変化を感じ取っていた。


 必死に慣れない作法を学ぼうとする健気な姿。


 侍女たちと楽しそうに笑い合う声。


 そして、時折ふと見せる、安心しきったような柔らかな笑顔。


 そのすべてが、彼の心を強く惹きつけてやまなかった。


 偽装のはずの婚約。


 だが、彼女を「俺の婚約者」と呼ぶたびに、その言葉が真実であればいいと、心の底から願うようになっていた。


 守りたい、という想いは、いつしか確かな愛情へと姿を変えていた。


 視察団の到着が迫る中、二人の距離は確実に縮まっていく。


 偽りの関係は、知らず知らずのうちに、真実の絆へと変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ