エピローグ「小さな芽と、続く物語」
リリアとカイルが結ばれてから、数年の歳月が流れた。
かつて「魔狼の森」と呼ばれ、人々から恐れられていた辺境は、今や「緑狼の楽園」と呼ばれ、豊かな恵みと平和を求めて多くの人々が暮らす、活気あふれる土地となっていた。
領主館の広い庭では、小さな女の子が母親の真似をして、一生懸命ジョウロで花に水をやっている。
銀色の髪に、ぴょこんと生えた可愛らしい狼の耳。
母親譲りの優しい瞳。
カイルとリリアの間に生まれた愛娘、フローラだ。
「あら、フローラ。上手ね」
庭の手入れをしていたリリアが、娘に微笑みかける。
フローラが水をやった花は、心なしかさっきより元気になったように見える。
どうやら彼女も、母親からささやかながら、植物を元気にする力を受け継いでいるようだった。
そこへ、仕事を終えたカイルがやってきた。
「ただいま、リリア、フローラ」
「パパ、おかえりなさい!」
フローラは駆け出すと、カイルの足に飛びつく。
カイルは娘をひょいと抱き上げ、慣れた手つきで肩車をした。
領主としての威厳ある姿とは違う、ただの優しい父親の顔だ。
キャッキャと笑う娘の声が、庭に響く。
その傍らでは、リリアがミントとバジルと楽しそうにおしゃべりをしている。
「今年のハーブも、大豊作になりそうね」
『リリアとフローラのおかげ!』
『毎日たのしー!』
精霊たちの声も、弾んでいる。
すべてが、穏やかで、満ち足りた光景。
追放という絶望から始まった物語。
でも、その絶望があったからこそ、リリアはこの場所で、かけがえのない宝物を見つけることができた。
ふと、肩車の上のフローラが、大きな声で叫んだ。
「ママ、見て! お花が、ニコってしたよ!」
リリアは、娘と、そして愛する夫の顔を見て、幸せに目を細める。
「本当ね。フローラが優しくしてくれたから、お花も喜んでるのよ」
辺境に蒔かれた一つの種は、やがて芽吹き、花を咲かせ、多くの実を結んだ。
そして、その物語は、次の世代の小さな芽へと、静かに、そして確かに受け継がれていく。
ここ、緑狼の楽園の幸せな物語は、これからもずっと、続いていく。




