第12話「決裂の宴と領主の宣言」
視察最終日の夜、送別の宴が催された。
数々の妨害が失敗に終わり、後がなくなったセレーネは、焦りから最後の手段に打って出ることを決意した。
もはや、小細工は通用しない。
ならば、公の場でリリアを断罪するしかない。
宴が和やかに進む中、セレーネはわざとらしくグラスを置き、悲痛な表情で立ち上がった。
「皆様、どうかお聞きください!」
彼女の声に、広間の全員が注目する。
ユリウスが訝しげに見守る中、セレーネはリリアを指さし、声を張り上げた。
「そこにいるリリア様は、王都で私を呪い、ユリウス王子殿下をその邪な魅力で惑わそうとした、許されざる悪女なのです! この土地を豊かにしたというその力も、民を惑わす危険な魔術に違いありません!」
シン、と広間が静まり返る。
獣人たちの間に緊張が走り、王都から来た騎士たちは剣の柄に手をかけた。
セレーネは、ユリウスに助けを求めるように視線を送る。
ここで彼が自分を肯定すれば、形勢は決まるはずだ。
しかし、ユリウスは何も言わず、ただ苦悩の表情で唇を噛みしめていた。
彼の沈黙が、セレーネの焦りをさらに煽る。
その、重苦しい空気を破ったのは、カイルだった。
彼は静かに、しかし、その場にいる誰もが聞き逃せないほど力強い声で、立ち上がった。
「……黙れ」
地を這うような低い声に、セレーネがびくりと肩を震わせる。
カイルはリリアの隣に立つと、その手を固く握った。
リリアの驚いた顔を、優しい眼差しで一瞥してから、セレーネとユリウスを、そして視察団の全員を睥睨する。
「リリアは、この地に、そして俺たちにとって、欠かせない大切な存在だ」
彼の声は、揺るぎない自信に満ちていた。
「彼女の力は、魔術などではない。枯れた大地を潤し、人々を癒やし、この土地に生きる我々に希望を与えてくれる、尊い恵みの力だ。お前たち王都の勝手な都合で、彼女を貶めることは、この俺が許さない」
そして、カイルは握ったリリアの手をそっと引き寄せ、高らかに宣言した。
「彼女は、俺の婚約者だ。そして、未来永劫、俺が守り抜くと誓った女だ!」
その言葉は、もはや「偽装」などという薄っぺらいものではなかった。
それは、彼の魂からの叫び。
真実の愛の誓いだった。
リリアは、自分の手を握るカイルの大きな手の温かさと、彼の力強い言葉に、胸がいっぱいになるのを感じていた。
偽装の関係は、この瞬間、紛れもない真実へと変わった。
カイルの宣言に呼応するように、集落の獣人たちが「そうだ!」「リリア様を侮辱するな!」と声を上げる。
セレーネは、予想外の展開に顔を青ざめ、ユリウスは、カイルの言葉に打ちのめされたように立ち尽くすしかなかった。




