第11話「聖女の罠と暴かれる過去」
視察が始まると、セレーネは早速、リリアを陥れるための罠を次々と仕掛け始めた。
ある時は、集落の貴重な薬草園を訪れた際、密かに薬草を数本引き抜き、リリアが管理不行き届きであるかのように見せかけようとした。
しかし、セレーネが薬草を隠した場所を、ミントとバジルがすぐに見つけ出し、リリアにこっそり教えてくれた。
「まあ、セレーネ様。こんなところに落ちておりましたわ。お怪我がなくて何よりです」
リリアににっこりと微笑まれ、セレーネはぐっと言葉に詰まる。
またある時は、カイルが見ている前で、わざとリリアの近くで足を滑らせ、彼女に突き飛ばされたように見せかけようと画策した。
「きゃっ!」
セレーネがわざとらしく転ぼうとした瞬間、カイルが風のような速さで彼女の腕を掴み、転倒を防いだ。
「……足元には、気をつけられるといい」
氷のように冷たい声と、リリアを一切疑わないその態度に、セレーネの計画はまたしても失敗に終わる。
さらに、セレーネは集落の住民に近づき、「あの女は危険な魔術を使う」「王都では聖女である私を呪おうとした」と吹聴して回った。
しかし、住民たちの反応は彼女の予想とは全く違った。
「リリア様が、そんなことするはずがない」
「あの方は、俺たちの子供の命を救ってくれた恩人だ」
「リリア様は、この土地に恵みをもたらしてくれた、俺たちの宝だ」
住民たちは口々にリリアを擁護し、逆にセレーネに不信の眼差しを向ける始末。
リリアがこの地で築き上げてきた信頼は、セレーネが想像するよりもずっと深く、固いものだった。
セレーネの稚拙な罠は、その度にリリアの仲間たち――精霊や住民、そして何よりカイルによって、ことごとく未遂に終わった。
カイルがリリアに向ける眼差しは、絶対的な信頼と、隠しきれないほどの愛情に満ちている。
彼がリリアを庇う姿は、まるで宝物を守る竜のようだった。
その様子を目の当たりにするたび、ユリウスの心は締め付けられるようだった。
(私が知っていたリリアは、一体何だったのだ……?)
彼女を擁護する住民たちの声。
彼女を慈しむように見つめるカイルの瞳。
そして、セレーネのあからさまな敵意。
パズルのピースが、少しずつはまっていく。
自分が信じてきた聖女の言葉が、すべて嘘だったのではないか。
自分が、取り返しのつかない過ちを犯したのではないか。
セレーネに対する疑念が、ユリウスの中で急速に膨れ上がっていく。
彼は、リリアを追放した日の自分の愚かさを、今更ながらに悔やみ始めていた。




