迷宮の怪物3
うわぁ!!!!
叫びながら切りつけ、致命傷を与え、ゴブリンの攻撃は盾で防ぐ。しかし、数に圧倒される。
大蛇はミノタウロスにかなりのダメージを与えたが、斧でその体を両断された。
猛り狂うミノタウロスの勝利の慟哭。
いつの間にか俺は殺すことに抵抗を示さなかった。
生きる。生きてやる。
それが今できることだから。
死体からはぎ取った剣でゴブリンを切り裂く。意外とうまく扱える。盾いなし、後ろを警戒する。
「タイラー!生きてるか!お前奥さん居ただろ!死んだら保険は入るだろうが奥さんが欲しいのはお前が帰って来ることだろうが!起きろ!タイラー!!」
ゴブリンの荒い斬りかかりをいなして、盾で頭を殴打する。
タイラーは依然、倒れたままだ。
まだなんとかゴブリンの侵攻を停めているが時間の問題だ。後ろにはまだ勝利の余韻に浸ってくれているミノタウロスが控えている。
絶望的ではあるが諦めてはいない。
なんとか生き残ることだけ考えて活路を見出す。
ジュエルさんがやり遂げたように、まだ活路はあるはず。
出口はミノタウロスがヘビの死体とともに塞いでいる。
ゴブリンたちは退路を完全に塞いでしまっている。
どうすればいい……
また兵士が一人倒れた。
後は六人、俺と倒れてるタイラーを入れて8人。
元々22人居たが既にこんなに減ってしまった。
もうあの牛頭も余韻に浸るのはやめたらしい。
また咆哮を上げ、その斧をふるうつもりみたいだ。
そしてゴブリンたちも数を減らし、先程と同じ数に落ち着いた。だが、劣勢であることには変わりない。
腕を切り落とされ、片目のゴブリンがニンマリと笑いながらこちらを観ている。
討伐隊のメンバーは一人一人が祈りを口にする。
これはこの街の人の教会にかかげられる女神への祈りの言葉だ。既に疲弊しきった体にむち打ち、俺たちは自分自身を鼓舞し続けた。
割れた剣をすて、抜かなかった短刀を抜き、構える。
息が詰まりそうになる緊張が張り詰める。
「相棒………………。漢だな。」
後ろを振り返った。そこにはズタボロになってた腕がもとに戻ったタイラーが立っていた。
「タイラー、お前……無事なのか?」
「見たまんまだ。どうやら俺は、魔法が使えたらしい。精霊の声を聞いた。」
タイラーがつぶやく。
「精霊よ。兵士たちの傷を癒せ。ヒール。」
傷つき、疲弊した体が嘘かのように治っていく。
「これが魔法か。すごい。」
討伐隊のみんなも感じたようで切り傷や体の怠さは治っていった。
「タイラー。やれるぞ!」
「後ろは任せろや!相棒!!」
タイラーが突っ込んでくるミノタウロスに突進して行き、ただ突っ込むように見せて、突っ込んできたミノタウロスの体重を利用し、強烈なカウンターを牛頭の顎にクリーンヒットさせた。
流石にミノタウロスはそれでも倒れなかったが、タイラーはそこから数々の拳を頭部に叩き込み、ミノタウロスをたじろがせる。
そんなミノタウロスとの戦いを後ろに、腕なしゴブリンが他のゴブリンに指示を出し、隊列を組ませた。
それはまるで先程までの討伐隊と同じように交代しながら斬りつけてくる。
あのゴブリンはかなり賢いのだろう。ヘビもミノタウロスもこんなに賢く強いゴブリンも、こんな初級ダンジョンに現れていい存在ではない。それもまるで罠にはめるかのような配置……
あの隠し扉は人為的???
教会の依頼書で集まった。
教会が裏で糸を引いている……?
考えすぎかもしれないが、癒えた体が思考を巡らせてしまう。
いまは、生きることだけ、考えよう。活路はある。
「何してるの?ひとんちで………」
そこには場違いにも程がある眠たげな雰囲気の赤い肌で二本の角が生えた、悪魔や鬼を彷彿とさせる女性が立っていた。
綺麗な黒髪が、整った顔立ちが、凛々しい眉が、
いや、それよりも見覚えのあるセーラー服が、俺の思考を停止させた。
赤い少女はセーラー服には似合わない、この世界には無さそうな日本刀のような、さらに収まった刀を抜き身にした。
顕になった刀はギラッと怪しく輝きを見せ、その瞬間ゴブリンたちは一斉に隅に身をよじった。
それは完全なる直感。
近くに居た自分と同い年くらいの兵士を押しながら逃げろと叫び、自分も壁に張り付いた。
その直感は間違いでなかったと、結果が証明した。
閃光のような一閃が、飛ぶ斬撃となって飛来し、討伐隊の胴体を切り離した。
希望は、一瞬で絶望に切り替わった。
出口を見やる。
ミノタウロスと接戦を描いていたタイラーはミノタウロスとともに倒れていた。
一撃だった。
あれはなんだ?
誰だ?知りたいようで知っては行けないきがする。
よく見れば見るほどその顔は知っている。
赤い肌で角があって、しっぽが生えていても、目元のほくろも、ふっくらした可愛い唇も、、、
神ノ木さん…
「逃げるぞ!!!後ろは空いた!行くぞ!走れ!」
同い年の兵士はこくこくと頷いてともに走る。
「…………逃さない。」
小さく、つぶやいたその声は紛れもなく、惚れた女性の声だった。
感情がグチャグチャになるが振り向かず全力で走る。軽装の俺がプレートを着ている兵士より速いのは仕方がない。肩を貸しながら走る。
途中ミノタウロスとタイラーが真っ二つに分かれていた。涙も流す暇がなかった。本当なら死体は回収しないといけない。迷宮に残していくと、悪霊か魔物になってしまうからだ。
だが、もう振り返ることも投げ出すことも出来ない。この一瞬にかける。
ブワっ
怖気が走った。
一瞬だ。彼女が刃を振るった轟音が鳴り響いた。
俺は兵士とともに、出口に向かいつつ真横の隠し扉へ向かい横跳びしたのだ。
生きる活路はここにある。
あが。
隠し扉に入れたのは、俺の上半身と、兵士の右腕だけだった。
叫ぶ力も出ない。
完全に読まれていた。
斬撃の軌道は俺たちがこちらに飛ぶことを予想して飛ばされていた。
あぁ、死ぬ。
俺は死ぬんだろう。
生産性のない人生の中、こんかよくわからないところに来て、生きるのに必死で、でも、仲間が出来て、仕事もして、ようやく会えたかもしれないのに。
神ノ木さん………
いや、奈々ちゃん………
俺は…………
君のことが…………
す………
………
………
ヒール。