表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

迷宮の怪物2

 筋肉だるまの大男が今日はパンプアップするといって筋トレをしている真横でスマホをみる。


 正確には画面バキバキで充電なんか何年も前に消えて、何も映ってないジャンク品をだ。

 ただ、裏面を向けると家族との写真と拓哉とのプリクラ、集合写真の時の神ノ木さんの切り抜きをカバーに挟んで入れている。


 これを見るとあの頃を忘れずに済む。


 

 筋肉が熱苦しい筋トレをしながら話しかけてくる。


 「ふっ……はっ……それ……このまえ…ふっ…言ってた……レアアイテム……か!?」


「そうだ。思い出の品だ。もう使えないけどな。」


タイラーには異世界転移したことは伝えてない。

恐らくこの世界のほとんどの人が異世界とか転移とかの話をまともに聞けないと思う。学校で学んだりしていないからフィーリングで話してるところがあるから。


 「……ふっ……そうか、………また………使えるように………なるといいな……はっ」


「そうだな。さて、討伐隊が準備出来たみたいだ。行こうか。」


 タイラーがさらに肥大した筋肉を膨張しているか確かめながら拳に布を巻いていく。

 俺も少しボロくなった大袋を肩にかけ、短刀を腰ベルトに刺す。

松明を手に取り、討伐隊に続いてダンジョンに足を踏み入れた。



 薄暗い石段を降りていくとまず一層目が迎えてくれる。何度も訪れたこの場所はおおきな空洞になっており、高い天井にはコウモリに似た魔物や、ゴブリン達が巣食っている。一見危険な場所に見えるが集団で囲まれない限り簡単に倒せてしまう生き物たちだ。そしてこの場所自体に様々な鉱石が出現する。


 それらを採取するのが俺たちが請け負う仕事だ。


 タイラーもこのガタイだが別に戦闘で作られた体ではなく、鉱石を運び出したり、怪我した人を迷宮の外まで続く階段を何人も運び出したりしたからついたナチュラルな筋肉なもので、案外戦闘とかは苦手らしい。


 もちろんおれも、地球の日本育ちが剣やら弓やらもって戦い、そもそも生物を殺すという行為が簡単にできるわけがない。正直、ゲームやアニメを観ていた時の俺は、ファンタジー世界に来たら勇者になって世界を救い、神ノ木さんみたいな美人と結婚したりとか考えてた。少しえっちなことすら考えいた。


 でも実際この世界に来てからはそんなこと夢物語だと知った。


 自分の家すらなく、魔物とあったりしたら一目散に逃げるか隠れている。動物園だって水族館だって檻や水槽の隔たりがあるから危険な動物達を見れたんだ。


 実際に外を闊歩する肉食獣と平然と戦闘できるわけがない。そんなのイカれてる。


 お金がなくて泥水をすすり、腹を下すことなんて経験したことなかった。


 でも、そんな生活を経験し、お金を自分で稼いで仕事して、危険だけどこの仕事を選んだ。生きるために。


 討伐隊が片手剣と盾を構え、前列がゴブリンたちに斬りかかり、後退とともに後列が躍り出る。

そして斬りかかりまた後退する。見事な連係でゴブリンたちを圧殺する。


 初めて見たときは血の気が引いて腰が抜けた。

剣がゴブリンの肩から入り、臓物をぶちまけるほどの袈裟斬り。圧倒するほどの回転する遠心力を使った回転斬りで周囲にいるゴブリンを胴と頭を切り離した。


 残酷な世界だと思った。今の日本で例えると猿のコミュニティに押し入って、攻撃される前に母子供ごと斬り殺し嬲り殺し押し潰す。

 

 生きるために食べるわけでもなく、自然発生するとはいえ、繁殖しているであろう人間大の魔物を斬る勇気は俺にはなかった。だから必死に資材の運搬を行う。弓使いのための矢の補充や、剣やら槍やらの替え、そして1日分の皆の食料、死体から使える者を取り、周りの鉱石なんかも漁る。


 最初は血で、次は体力でぶっ倒れていたがいまはしんどいながらも平気でこなせる程度には体力がついた。だが今回は討伐隊の補助も入っている。討伐隊の弓使いの女性が弓矢が切れたと同時に剣盾の兵士たちの股下を小さい体を利用して素早くくぐり抜け、持ってる糞尿をかけた錆びたダガーナイフを持って迫りくる。それも3匹同時に、攻撃手段のない弓使いの女性は金色の髪を揺らしながら慌てて後退しようとするが間に合わない。


 あわやという瞬間こそ、俺たちは助太刀にはいる。

といってももってた槍を投擲し、ゴブリンが侵攻を一度やめ、槍を投げた俺のほうを捕らえる。

 一匹がこちらに向かい、二匹はそのまま女性に向かう。


一匹釣れたら御の字。


 向こうに向かったゴブリンはタイラーがその巨躯を活かして岩をぶん投げる。

 持ち前の運動神経なのか、その岩はゴブリンの頭に命中し、どうっと倒れる。抜けてきたゴブリンはダガーを這わすが、タイラーの強烈な前蹴りがゴブリンを後ろ飛びさせる。タイラーが持っていた弓矢の補充分を受け取った女性は強く食いしばりながら弓矢を放つ。


 一線の光をもって弓矢はゴブリンの眉間にひっとした。


こちらに来たゴブリンはなんとか引きつけながらすんでのところでダガーをかわし、持っていた辛子の小瓶を目元へ投げつける。


 ぎぉゃ!と鳴き声を鳴らしながら後退するところを後列にいた剣盾の討伐隊の男性が気づき、盾を鳴らして注意を引きつけながらそのゴブリンをさそう。


 しかし、その注意はそらさず俺を殺そうと向かう。


 剣盾の男性が、ゴブリンよりほんの少し早く剣を振るい横に一線、が、ゴブリンは右腕を切り落とされながらもダガーでそれをいなした。


 「なに!?…うぐぁ!!!」


先ほど投げた槍を瞬時に拾い上げ、槍で男性の首元を刺す。

プレートで固めている戦士たちだが、頭近くは覆わない。洞窟の中では周りが暗くて、フルプレートだと事故がおきるからだ。


 その唯一の弱点を狙われ男性は突き立てられた槍を首に直撃し貫通する。

 しかし最後の力と言わんばかりに腕を振り、真上に切り上げるが、ゴブリンの右目を切り裂くばかりで致命傷にはならなかった。


 ゴブリンは何事かをつぶやき、出血していた腕はその血をとめた。


「ワーナー!!!!」


弓使いの女性が叫びながら弓矢を引き抜く、放たれた弓矢は軽くかわされ、ゴブリンはこちらをみながら怒号を放つ。


 先ほどまで剣盾と戦っていたゴブリンたちを引き連れて撤退していった。



 「ワーナー…………」


弓使いの女性は駆け寄り泣き崩れた。


 他の兵士たちも倒れた仲間を観て口々に名前を読んだ。


恐怖からの震えか、生き残った喜びの震えか、助けたつもりが助けられて死なれた罪悪感からの震えなのか。


 手がガタガタと震えた。


 肩をがつっとつかまれて心臓が飛んでいってしまったかと錯覚した。タイラーだった。



 「討伐隊が一人死んじまったのは悲しいがお前が生きてて良かったぜ。不謹慎だとは思うがな。兎に角俺たちは生き残ってるゴブリンがいないか見て回りつつもの拾いだ。」



 タイラーの言う通り、この世界では死は身近だ。

特に迷宮では落ち着いて次に行動を移さないと生きていけない。


 先ほどまで悲しみに暮れていた弓使いも泣き腫らした顔のまま、残党がいないかチェックに戻ったている。

何人かはゴブリン達がまた戻ってこないか見張り、数人は仲間の死体を包んでいる。どうやら先の戦闘で2人死亡してしまつまたようだ。


 この迷宮で死亡するのはないわけではない。

あくまで命のやりとり、少し気を抜けば殺されることもあるが、今回の討伐隊はこの街でも優秀と言われる探索員が依頼を受けている。

 

 よって死亡することはかなり少ないはずだが…



 ゴブリンたちが絶命している事を確認しながらゴブリンが持つ貴金属を奪い取る。

これが青を増やし赤にする。

拾い集めていると討伐隊リーダーが声を上げる。



 「これより、一度迷宮から帰還する。ワーナーとオズワルドの遺体は後列隊が運び出し、前列は警戒しつつ全方位に展開、支援部隊はジュエルと先行し、状況を伝達。では、行動開始!!」


 快活な発生により、支持をしっかり聞き取った。

俺とタイラーはお互い視線を合わせ頷きつつ、大荷物を背中に担ぎ、ジュエルを探す。

先行するとジュエルと呼ばれていたのが先の金髪で青い瞳の弓使いだと知る。


 組合にはたくさん人がいるため、今回の討伐隊のほとんどを知らない人だ。


 近寄ってくるジュエルさんが弓をいつでも放てるように構えつつ後ろを守ってくれる。


 スンスンと鼻をすする音が聞こえる。

なにか言うべきかと思い口を開こうにも未だに震えていた。

 

 うまく喋れずうあっ…と声にならない声を吐き出してしまう。


 「どうしました?」


その青い瞳が潤んで宝石のように輝いているが、戦士の目をしていた。


 震えて声を出せない俺を悟ってか、隣を走るタイラーが気を使った声量でかわりに答えてくれる。


 「すまん。さっきはもっと早く助けに行けなくてよ。俺はタイラー・エドモンド。この見えてんのかわからん長い前髪の優男がハヤト。」


 「そんな…謝れることなんかありません。助けて頂きましてありがとう御座います。お二人には感謝しかありません。」


 礼儀正しく一礼してくれる。別に優劣は組合的にはないが、実情は、採取を担当する俺たちを討伐隊は"もの拾い"と侮蔑を込めて呼んだりすることもある。全員って訳では無いが大半がそうだ。

 

 だからこそこの人がより一層礼儀正しく見えた。


 震えが少し収まり、口を開ける。


 「いえ、すみません。助けに入ったのに、逆に助けられて、その……死んじゃって…」


 吐きそうになるほど気持ち悪かった。

ムカムカとする気持ちが胃を殴りつける。


 「………ワーナーは勇気ある人でした。きっと、助けて死ねたことを誇りに思っています。」


 ゴブリンに殺されたのに誇りなどあるわけない。

俺が中途半端に助けに入って、何度も切るタイミングはあった。腰に刺した短刀があのゴブリンの首をはねる姿を想像し、胴を真っ二つすることを想像したが短刀に手をかけることすら出来なかった。


 その結果、人が死んだ。



 「……すみません。俺、もっと強くなります。」


「……そうですね。強くなることは良いことだと思います。ただ、今回、一層のゴブリンにしては手強かった。特にあのゴブリン。ワーナーは十年のベテランで、後輩たちに剣を教えているくらいには剣技が得意なんです。ゴブリンはもちろん、グリフォンも討伐した経験があるんです。あのゴブリンは異常だった。それだけです。」


「たしかにな。あれはどうやら魔法も使えるみたいだ。人間でも魔法使いは少ないのにな」


「血が止まってたのはやっぱり魔法……」


 ジュエルさんは小さく頷き、言葉は返さなかった。


 

「もうすぐ出口だ。」


 出口の光が見えもうすぐという時、タイラーが叫んだ。


 「伏せろ!!!!」


 


 出口真上から巨大なヘビの魔物が出現し大きな噛みつきを放つ。タイラーのこえのおかげで下に屈んだことで避けられたが、後方にいた剣盾の討伐隊から大きな悲鳴が鳴り響いた。


 隊長がヘビにくわえられ、階段を崩しながらヘビが出口上の穴へ引づっていく。


 皆ヘビの身体に切りつけるが、動じず、隊長がなすすべなく呑み込まれていった。そして、出口壁面が突如として開いた。まるで隠し扉の自動ドアのように。


 出てきたのは牛頭で上半身は人間。足も牛の足で踏み込みながら、俺の身長と同程度のどでかい斧を持ちながらゆっくりと出てくる。


 「……うそ……ミノタウロス。それにさっきのはヘルドラゴ。私たちでは太刀打ちできません。なんとか撤退を…」


 「うわぁーーー!!!さっきのゴブリンの大群だ!さっきのは3倍はいるぞ!!!!」


 後ろの方から叫び声とともにゴブリンの大群の足音が押し寄せてくる。

 

 

「おい、ハヤト。保険入ったか?」


 タイラーがおどけて聞いてくる。その額には汗を大量に流していた。


 「…金ないから入らなかったよ……いま、後悔してる。」


 「そうか………なら死ぬなよ。相棒。」



 「二人とも、伏せて!!!」


 ミノタウロスが大きく踏み込み斧を横凪、

すんででかわしたが、その振り被った勢いを殺さず、角を前に突進を繰り出してきた。


 それはまさしく2トントラックを彷彿とさせる勢いある巨大が突っ込んでくる恐怖。


 避けたいが避けることはできず恐ろしいほど早い突進はタイラーがその巨躯で受け止めに入った。



 「うぐぁ!!」


タイラーの両腕が砕け散り、大きく吹っ飛び、階段を登ってきていた討伐隊の兵士に激突した。鈍い音とともに、さらに後方から迫るゴブリンたちが彼らを襲い始める。


 鼻息を荒立てイカれ狂うミノタウロスは雄叫びを上げる。また突進する体勢に入っているのだろう。



 俺は死ぬ。


死を覚悟した。後ろの討伐隊の決死の戦いの慟哭。

 

 耳鳴りするほどのミノタウロスの雄叫び。


この世界でようやく友人になった男タイラー。

悔いだらけの生だったが

これで終わりでもいいかもしれない。


 そう思ったが、後ろのジュエルを見てまだ生きるのを諦めていない瞳が俺を生きろと言っているかのようだった。


 「あそこ、あそこに活路を導き出します!全員死んではまた大量の人が送られて死んでしまう。必ず誰かが情報を持ち帰らなければいけません!皆生きる希望を忘れてはいけません!生きて!生きてここを出るのです!」


意志を強く持った瞳がキラキラと輝き、死にゆくだけだった討伐隊が息を吹き返したように、絶叫ではなく希望を持って戦っているようだ。


 おれも、不思議と希望を持てた。


 ジュエルさんが俺に耳打ちする。


(あの隊長を引きずっていったヘビの穴に火の矢を放ちます。そのヘビの動きによって活路を…なんとか逃げて情報をつたえてください。)


 そう言って火打石を素早くうち、火の矢をつがえ、放った。


 ドドドと、大きな音をたて、ヘビが大口を開けながら猪突猛進、ミノタウロスが突進すると同時に突っ込み、大蛇にミノタウロスは胴からかぶりと噛みつかれた。そして火矢はヘビを燃やした。

暴れながらミノタウロスも反撃する。しかし燃えて暴れるヘビは強烈に壁に打ちつける。


 地響きが起こる中ジュエルが叫ぶ。


 「行ってください!!!ハヤトさん!」 


ジュエルさんはその時俺みたいに、力なく笑った。

あんなに強く輝いていた瞳は諦めたようだった。


 そんなことは…



そんなことはさせない!



俺は担いでいた荷物をおろし、この数年間のフルパワーを使ってジュエルさんの腕をつかみ出口に向けてぶん投げた。きっと、火事場の馬鹿力だろう。


 飛んでいくジュエルさんは困惑の表情と焦りを見せたが俺は言葉を紡いだ。


 「生きてください!あなたが開いた活路だ!ここは俺たちに任せて!!!」


暴れるヘビとミノタウロスの隙間を運良く通り抜け、彼女の後ろ姿を見送った。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ