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迷宮の怪物

 昔、俺が十六歳だった頃、地球の日本の高校生だった頃、友達とゲームの話やアニメの話が好きだった。


自分がファンタジーの世界に行ったらどうやって生きるのか、ゾンビパニックが起きたらどうやって生きるのか、無人島に一つ持ってくなら何を持つ? 


 そんな他愛もない会話で盛り上がるくらいには陰に属してきた。


 ほんとは陰とか陽とか気にもしてないが、ファンタジー世界に行ったらどう生きるのか、この会話は今の経験に活きている。


 「おい。ハヤト!依頼取ってきたぞ。」


 依頼書をひらひらと振りながら、この迷宮探索組合の建物全体に響くような無駄に大きい声を出すのは現地で仲間になった仕事仲間、タイラー。


 筋肉の申し子のような筋骨隆々でスキンヘッドの大男、職業は俺と同じ迷宮探索員。

ファンタジーだときっとモンクとか格闘家とかだろう。その筋肉を見せびらかすためか上裸だから。


 この世界にやってきたのは5年前、放課後の教室で友達の拓哉とスマホの新作ゲームを協力プレイしていたとこだった。


 「おい、いま、覚醒アイテム揃ったくない?」


 「きたな!これでディアナ姉さん完凸です」


 「おれも!ハイタッチ」


 パチン!と勢い良く鳴らして、静かな教室に響いたもんだから周りが気になって見回すと教室には神ノ木さんと三上さん、ヤンキーの海嶋が寝ていた。


 神ノ木さんが宿題をしていたようで、パチンという音に反応してきれいな黒髪を揺らしながらこちらを見た。


 些細なことだが少し目が合って鼓動が跳ね上がる。

神ノ木さんの隣でギャルの三上さんがなんだか少し軽蔑したような目をしていた気がしたが、そんなことを忘れるくらいには嬉しい。


 神ノ木さんとは学級委員でしか喋ったことがないが、とても美人でお淑やかで、密かにこいしているから補正がかかっているかもしれないが、俺の中で一番美人な女性だ。



 簡単に言うと惚れている。


だからこの目があったことで高鳴った興奮をゲームに落とし込む。

  

 「おい、隼人。お前神ノ木さん見過ぎだ。好きなのはいいけど、あんま見過ぎると嫌われるぞ?」


 「うっせ!そんなんじゃねぇから。さ、完凸させよ。」


 拓哉が余計な世話を焼いてくるから気分が下がったが、このゲームの主要キャラのディアナ姉さんを完凸できる喜びが湧き上がる。正直、雰囲気が神ノ木さんに似ていることが好きな理由だがそれは拓哉は知らない。


 「さて、行くぞ。ディアナ姉さん!最高の状態を見せてちょうだいな!」


凸ボタンをタップした瞬間、携帯が緊急アラート画面に切り替わった。


 途端、経験したことのない揺れが襲った。


 「拓哉!!やべぇ!」


 「こういうとき、机の下だ!」


 強い揺れに驚きながらも机の下に隠れる。


 「おい!みんな!机の下に入れ!」


揺れを感じて慌てて入ってきた先輩の名前は知らないがイケメンでチャラついてる奴だという認識のある男が、急いで机の下に隠れている。


 だんだん強まる揺れの中教室の真ん中に幾何学模様の光を放つ、これは魔法陣なのだろうか。それは複数あるように見えた。その光は強まり、まぶしい光が全体を包んだ瞬間、気を失った。


 そこからはファンタジー世界に転移。

見知らぬ草原に寝転んでいた。


 突然見知らぬ土地、見知らぬ世界になにもなしで放り出されたら、どうすればいいのか。

友達も、思いを寄せていた人も、誰も周りにはいなかった。


 草原に、ワニみたいな顎の象、緑色の肌の小人、天空を飛んでいるプテラノドンのようなオオコウモリ。


 中世ヨーロッパの時代を彷彿とさせる木や石で出来た建物ばかり。当たり前だが馬車や徒歩の人ばかり、最初は戸惑いながらもこの世界にともに来てるかもしれない友達に、片想いの相手に会えるように、それまでたくましく生きていかないといけない。


 そう思って街ゆく市民に怪訝な顔をされながらも街や世界について聞いて回った。世界についてはあまりいい情報はなかった。


 学びがほとんどなく、学校はえらい人しか行けないらしい。あと、街の北西に教会があり、いつも祈りをささげるらしい。

 服装で少しいいとこの貴族と勘違いして泊めさせてくれた宿屋のふくよかなおばちゃんが教えてくれたことによると、この街は迷宮によって発展した街であるらしい。


 もともと農村だったのだが、突如迷宮が出現し、その中で採れる資源は採り尽くしても1日経てばまた復活する仕組みになっているという。それが何でなのかとかは偉い学者たちは知ってても市民は知らないとも。


 そのおばちゃんの紹介で仕事先として教えてもらったのが迷宮探索組合の探索員である。


 ダンジョンギルドとも言われている。


 迷宮の資材を集めたり、中の魔物が市街に現れないように狩るのも仕事だ。迷宮はこの世の中では自然に発生する洞窟のようなもので、その中は様々。

自然発生する魔物たちは凶暴で危険なのだが、比較的にこの街の迷宮は安全な方らしい。


 その組合が様々な依頼を張り出し、その仕事と成果によって報酬は変わり、見たことない硬貨で取引される。青、赤、紫の順番で硬貨の価値が上がる。

基本青ばかりだ。


 青が10枚でパン1個と交換できる。赤は教会に行った時にお布施で渡しているところをみたことがある。

紫は聞いたことがある程度だ。


 その報酬をもらって日々生きているわけだが、基本討伐は受けない。資材回収を主にやっている。


 それで5年過ごしてきた。いまだ宿無しだ。

 トイレは草むら。街の少し外れたところにそれっぽく、木や土をかぶせて家にしている。雨漏りだけは防げたが、家と言っていい場所ではないからいつか家が欲しい。


 風呂なんてほとんどの人が入っていないだろう。

日本人の俺にはきついところもあったがいまは慣れて、火を使って沸かした湯にタオルを付けて体を拭いている。


 最初こそ、残してきた家族や、なんでこんなところに召喚されたのかとか色々モヤモヤしていたが、魔物が闊歩する世界では生きるのに必死で正直忘れそうになる。


 今もタイラーが持ってきた依頼書を読んでいると忘れてしまえる。


 「タイラー。これ本当か?ダンジョン内で異常発生の原因究明及び一層二層の資材運搬、回収。討伐隊の補助、報酬赤硬貨保証。成功報酬あり。保険加入推奨。って、こんな好待遇は嘘じゃないよな?」



「マジも大マジさ!資材回収しながら少し補助すりゃ赤硬貨は確約だ!こんなうれしいことはねぇ!ほら見ろ!俺の筋肉が踊ってる」


 タイラーの胸筋を動かすギャグはスルーしつつ、その眼差しから大マジであることは確かなようだ。


 「保険は入っとけよ。何かあった時家族に残せるようにな。」


「おい、タイラー。嫌みか?俺には自分の生活しかないって。それに組合の一時保険は高すぎて俺の給料じゃ入れないって。入る意味もないし。」



 組合の一時保険は、迷宮内において怪我や死亡事故に伴う金銭の保証、怪我病気の場合の医療機関への受診の割引等の保険だ。ちなみに加入には赤硬貨が1枚必要。入ったら儲けはゼロだ。 


 タイラーは首を横に振る。


 「何いってんだ。あれは怪我病気の場合割引してくれんだぞ?今回は特に入っといた方が良い。あの迷宮は迷宮初心者でも探索可能だって言われてるのに、こんな高額な報酬が依頼を受けたやつら全員に保証されてるんだ。その上頑張り次第で成功報酬があるとか。そんなんが何もないと思うのか?ハヤト」


 依頼書を俺の顔面間近まで持ってきて文字を指でなぞる。それを目で追いながら保険加入推奨をよく読んだ。


 「…まぁ、たしかに…一利ある。そういえばこの依頼書、どこが出したんだ?貴族か?組合?」


 「いや、教会が出してる。」


 「まじか………」



 教会はこの街、エルメスで最も権力をもっているだろう。そんなとこからの依頼。たしかになにかありそうで、危険だけど受ける価値は高そうだ。


 …保険も入っとこ。




 


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