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光に包まれて

 真夏の放課後、強い日差しを浴びながら校庭を走る運動部を横目に明日の宿題を終わらせる。


帰宅部の私の特権でもある放課後の教室。


帰宅部なのに早く帰らないのは妹達が家に帰宅し、遊んでと懇願してくるのを避けるため。


 筆記用具入れにシャーペンをしまい、教科書とノートと共に鞄にしまい入れた。


 「神ノ木さん。宿題終わった?」


私の宿題中、隣の席に座りずっと暇そうにこちらをみていた三上静香が嬉しそうに声音を上げて喋る。


 「終わったよ」


 「やった!一緒に帰ろ!」


椅子から勢いよく立ち上がり、鞄を背負う。


ショート丈のスカートがひらひらとして中が見えそうになるが本人曰く短パン履いてるから大丈夫らしい。


静香は中学からの仲で、昔は黒かった髪が高校に上がる頃には金色に染まり、ピアスまで開けていつの間にか不良少女になってしまっていた。


肩まである髪をくるくると巻いてるのがお気に入りらしい。


 バサバサなまつ毛に大きな瞳がこちらをきらきらしながら見ている。まるで子犬。


 「ほんと神ノ木さんはしっかりしてるよね。私なんか勉強ほとんどテキトーで聞いてないからマジ無理ゲーって感じだし。」


「別に私のは家じゃ出来ないからしてるだけ。さ、帰ろ」


帰り支度を整え、席を去ろうとした時、


ガタガタ。


「え?なんか今揺れなかった?」


静香が教室が揺れたことを指摘したその後の出来事だった。


ゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!


凄い地響きと共に大きな揺れが起きた。


同時に携帯が緊急アラートを鳴らしかなり騒がしい教室に早変わりしたのもつかの間、ウワァと教室に残って携帯ゲームに勤しむ男子2人と、後ろの方の席で授業のじかんから居眠りしていた不良男子、強い揺れで慌てて教室に入ってきた体育着の先輩男子。そして静香と私、神ノ木奈々は机の下に潜り込んだ。


 各々の叫びと揺れの轟音。

そして突然光りだした黒板と教卓辺り。



強い揺れが教室を崩しつつ光が教室を包んだ時私達は意識を失った。





 地震を経験したことのなかった私は、気を失った後家族の顔が浮かんだ。ニコニコした妹たちが手を降って呼んでいる。


 それが夢だと気づいたのはお腹辺りに強い痛みを感じて覚醒した為だ。



 「……っ。静香?大丈夫?」


自分の体を見つつ、静香を探した。地震で下敷きになっているかもしれないと。


しかし、辺りを見渡すとそこはさっきまでいた教室とは違い、松明の明かりに囲まれた薄暗い部屋だった。


 そして、その明かりで気付く。


 「うわぁ!」


明らかに人間ではないとわかるヤギ頭の人型の化け物が真っ黒なコウモリのような翼を背中に生やし、その異形な瞳でこちらをみていた。それも一人ではない。何人もいる。


 「…起きたか。立たせろ。」


ヤギ頭の中でもかなり長い黒いヒゲと、この中で最も立派な角を持ったやつが命令する。


 すると周りの仕えているのであろう者たちが私に近寄る。


 「きゃあーー!来ないで!!」


 抗えない力で立たされる。


 ヤギ頭たちに両腕を押さえられ、服を裂かれる。

制服が破かれ、ブラジャーと胸をみられてしまうがらそんなことよりも恐ろしい偉そうなヤギ頭の何でも切り裂きそうな爪が胸に迫ってくる。


限りある悲鳴を上げるが虚しくもその鋭い爪は胸に突き立てられた。


 「うげぉ!!!!あぁぁぎぃい!!!いっっっ……!!!」


その爪が簡単に胸を切り裂いて、平和な日本で生まれて、怪我は裁縫の時に指を刺してしまって泣いてた私が味わったこともない鈍痛に、絶叫し、口からも血液を吐き出しながら、その痛みで気を失う。


 しかし、すぐに謎の光りに包まれて意識が戻る。

意識が戻るとまた痛みにあえぐが、傷が魔法のように塞がっていく。



 「よし、問題は無さそうだ。こいつもこれで我が国の兵士だ。」


 言っている言葉の意味は理解できるのに、何を意味するのか理解できなかった。


 

突如として始まった地獄は夢だと思いたかったが、夢ではなく現実だった。とてもとても残酷な。


 

ヤギ頭たちに胸を裂かれてから私の身体はおかしくなった。不気味な骨を繋ぎ合わせて作られた椅子に縛られ、この世界にいる人間の話を聞かされる。赤いヤギ頭が念仏のようなしゃべりで真後ろからずっと語りかけてくる。


何も聞きたくないし、ここから出たいのに、私の身体は脳とは別にしっかりと耳を傾けている。


聞かされる内容をおさらいすると、私はあの偉そうなヤギ頭に召喚され、このヤギ頭達の国を救うために他国(人間たちの国)を滅ぼす勇者となるらしい。

 

 人間達はこのヤギ頭たちの住む場所を占領し、国境に追いやる糞どもで、生かしておくわけにはいかない。殺すか奴隷にするか。それ以外の選択肢は人間には残されていない。


 私は何度も何度も何度も、人間の恐ろしさを説かれた。醜さと傲慢さを。


 この説法が終わったと思うと、また松明の部屋に戻される。


 戻されると先ほどの切り裂かれた恐怖が一緒に再来する。


 しかし、それ以上に自分の身に起きたことの衝撃で忘れていた、静香がそこにいた。

胸を切り裂かれて、たくさん泣いたんだろう。

顔がグシャグシャになって、メイクも崩れている。


私も静香と同様に手を縛られた状態で天井からぶら下がっている釣り針のような形状の針にかけられ、吊るされる。


 静香が居たことに良かったと安堵したが、また恐ろしいことが始まる予感がしていた。


 「さて、私はお前らを召喚したわけだが、何もお前たちが初めての召喚ではない。お前たちが別世界の住人であることも把握済みだ。お前たちは人間を滅ぼす勇者に選ばれた。そして、お前たちの心臓は魔物の物と取り替えた。お前たちは既に人間ではないということだ。そしてその心臓は私の管理化にある。選択肢は一つ、服従せよ。」


ヒゲの長いヤギ頭が仰々しく語る。


胸を裂かれた時に心臓を取られたということか。何でそんなことをして生きているのか。移植手術で他の動物の心臓を移植して生きた例などないのに、この文明も発達してなさそうなところでそんなことがうまくいくのだろうか。

 

 魔法という概念が過ぎる。胸が裂かれたというのに今は傷一つない。それが証拠だろう。


 語る間もえぐえぐと泣いている静香の声に反応して近くにより、ニッコリと笑みを浮かべながら鋭い爪を静香の下腹部に突き立てる。


 「おびえているのか?大丈夫だ。お前たちメスは我々にとって有用だ。だから過度に傷つけることはない。ただ、先ほども言ったが、服従のみだ。反抗は、許せないよな?」


 なんとかここから脱出出来ないかと吊るされた状態から抜け出そうと見られていない時に動いていたが、ヤギ頭は気づいていたようで、いやらしい笑みを浮かべながら静香の顕になっているへそから、鋭い爪で徐々に突き刺していく。


 ゆっくりと突き刺す中で、静香の悲鳴は絶叫に変わる。


 「い………がぁ、ああああぁ!!!!!だ、やめでぇ!!!!」



「そんな……やめて!やめてください!!!もう逃げませんから!!や、やめてください!!!私が!逃げようとして!静香は関係ないんです!!やめてぇ!」


 ニヤニヤと愉悦を浮かべながらその爪は背中まで貫通していった。

 

 

 全く止められることなく、静香の腹に風穴が空いた。静香は泣き叫んだ。途中お母さんやお父さんを呼んでいた。その悲痛な叫びが頭に、痛いくらい響く。



 「逆らうとこうなる。お前たちには服従のみと言った筈だ。逆らえば片方が苦痛を味わう。分かったか?」


 爪から血を滴らせながら静かになっていく友人を嘲笑う。


 悪魔だ。


 私が悪いのに、静香は怯えていただけだ。なんとか逃げ出して元の世界に戻ろうと思ったが私の考えが甘かった。わざわざ身体に細工して、こうやって勇者だとか言ってくるヤギ頭たちは殺さないはずだと思ったが、あまり希望はモテそうになかった。


 「はい。すみませんでした。どうか、私の友人を助けてください。お願いします。」


 


 「ふむ、今までの奴らとは少し違いそうだな。その友人が死にかけている中、冷静に言葉を返せる。」


 控えていた他のヤギ頭がささっと近寄り、血が滴っている爪の方を真っ白な布で綺麗に拭っていく。立派な角のヤギ頭はそれを受け入れ、拭われた後その爪を再び静香の方に向け、謎の光を放つ。


 何事かをつぶやき、放たれた光の靄は静香の傷ついた腹部を内臓から皮膚に至るまで、時間を巻き戻しているかのように元に戻していく。


 現代医療も顔負けの回復術。恐らくこんな化け物もいるのだからこれは魔法なのだろう。


 私は妹たちとよくアニメを観ていたが、その中で異世界を舞台としたファンタジーはよく観てきた。転生ものや転移ものも好んでみてきたが、自分の身に起こりうることなど想像もしていなかった。


 このようなことが現実なのか。しかし、吊るされた腕が痛みを発しているから、目の前で友人が痛みで絶叫するのを目の当たりにしたから、一度胸を切り裂かれて強烈な痛みに喘いだから、この絶望が現実だということを十分に物語っている。



 「さて、服従を誓う前に、名を聞こう。」



 「私は神ノ木奈々です。」


 「………私は三上静香……です」


「よろしい。神ノ木奈々、三上静香、を我、カプラ・ゴート・ツゥーゲ・シューベルの支配下に置くことを大精霊に誓う。」


 


 黒い靄が立派な角のヤギ頭の近くに発生し、それが徐々に私と静香の元にやってくる。


 その黒い靄は心臓に集約し、皮膚にハート型のタトゥーのような紋様が浮かび上がる。


 靄が私たちの体を包む時、何か笑い声のようなものが聞こえた気がした。



 『君たちにギフトを』



そして、私は再び気を失った。






 






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