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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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71話「ヌクインの町⑧」

 ヌクインの町から少し外れにある丘に建てられたホテル。うねる岩壁、広がっていく森林、そびえ立つ山。ワンフロア貸し切りとなっている最上階のスイートルームからは全方位に渡って町はおろかマッカチョッカ大陸の大自然さえも眺められた。

 

「このホテルってここの土地を所有している人がお子さんのために建てたんだっけ。お金持ちの人はやる事のスケールも大きいのねえ」

「へー、そうなんだ。エーダ、何でそんな事知ってんの?」

「トレーナーさんが話してくれたんだよ」


 何故、こういった勝負イベントをやっているんですか──? ユーシャが受付の男に勝利した後、賞金であるスイートルームの宿泊代を受け取る際にエーダはトレーナーに訊ねた。僕も又聞きで本当かどうかわからないんだけど──控えめマッチョの話はホテルが建てられた頃にまで遡る。


「ここ周辺一帯を所有している大地主の一人娘が風呂に入りたがらないらしくて、壮観な景色が見える露店風呂ならばどうかと思ってあの建物を建てたらしいんだ」


 風呂が嫌いな娘に風呂を好きになってもらうために──あまりのスケールの違いに絶句するエーダ達をよそに男は経緯を説明する。

 当初は建物すべての階を自分達が使用する別荘として構想していたのだが、造られていく過程ながら素晴らしい出来に、どうせならホテルとして他の人にも利用してもらおうと、最終的に下層階がホテル、最上階が地主の別荘として竣工したらしい。だが──。


「結局それも失敗に終わってしまったらしいんだ。それで普段使いしていない部屋をそのまま放っておくのは勿体ないと高級スイートルームとして貸し出す事になったのさ」


 最上階ワンフロアのスイートルームは他の部屋よりも金が掛かっている分、宿泊代も高く設定されていた。そのせいか、案の定客足が芳しくない。トレーニングジムに客として訪れていた地主が住む屋敷に仕えるメイドがそのような話を旧知のトレーナーにしていたのだ。そのトレーナーから聞いたオーナーはすぐさまホテルに赴いた。


「『スイートルームの宿泊代を賭けた勝負イベントを開催して、勝者にはジム持ちで宿泊ができ、勝者が出ずとも頂いた挑戦料で定期的にジムのメンバーが慰安目的で利用する』というのはどうかと提案したんだ。向こうも二つ返事だったらしいよ」


 決してホテルをダシにせず、得た利益はジムの者がスイートルームを利用してホテルに還元する。ホテル側も芳しくない部屋の定期的な利用が確約される。相互利益となるイベントの開催をホテル側も快諾した。ジムに勤めるマッチョ達は日頃から品行方正なのも後押ししたのだろう。エーダ達に説明している控えめなマッチョも最上階ワンフロアからの絶景を過去に堪能していた。


 ──スイートルームはもちろん、ホテルのサービスも最高さ! 利用させてもらった僕が保証するよ──。


「こっちからは海も見えるよ」

「あっ、本当だ! この景色だけでも泊まった甲斐がある気がするわねえ」

 

 宿泊経験者からのお墨付きを貰ったこの部屋は、正に極上といえるものだった。

 風呂に入りたがらない娘のために作らせた露天風呂。まずはエーダとフアムにと、この部屋の宿泊代を勝ち取ったユーシャは二人に一番風呂を譲った。


「えっ、で、でもここのお部屋を利用できるのはユーシャのおかげなんだからユーシャが先でいいわよ」

「別にいいさ。二人とも雑用して疲れただろ? 風呂に入って疲れを癒してよ」


 疲れたというのであれば、直近にしこたまスクワットをこなしたユーシャの方がよっぽどなのではないだろうか。


「ユーシャは疲れてないの?」

「え? 何で?」


 ……。まるで何事もなかったかのように少年は振る舞っていた。二人に気兼ねなく先に入ってもらおうと強がっているのか。それとも忘れっぽいこの男は疲れている事さえ忘れてしまっているのだろうか。


「いや-、しかしすごい景色だよなあ! 城にいた時も高い所から色々見れたけど、同じ自然なのに全然違う感じになるんだなー」


 いや、そのどちらでもない。軽やかに室内を歩き回っている暢気な少年は、あれだけのハードワークをしていながらも一切疲れていない、もしくはもう疲労が回復しているのだ──二人は確信した。驚くべき怪物性である。


「ユーシャ、多分もう聞く耳持ってないよ」

「……そうね。じゃあお言葉に甘えて入りましょうか」

 

 ユーシャの厚意を素直に受け取ろう──半ば呆れながらもエーダとフアムは先に風呂に入る事にした。





「やあ、お疲れ様」

「オーナー! お疲れ様です!」


 ユーシャに敗れた受付の男は営業終了後、せっせと室内の掃除に勤しんでいた。今日も筋肉達の筋肉を追い込んだ器具を丁寧に拭いていた彼の背中に、ジムを経営しているオーナーが話し掛ける。どうやら先程の対決を見ていたようだ。


「あの少年は素晴らしかったね。まさか君が負けるとは……。いつ以来の事かな? あまりにも珍しいから忘れてしまったよ」

「大地主に仕えるメイドに敗れて以来ですね。メイド長のゴリエットには何とか勝てましたが、別の日にチョードリーに負けてしまいました」

 

 記憶にはあの日の敗戦がしっかりと刻み込まれていた。

 男は手を止め、窓の外を眺める。彼女達は、今も筋肉を喜ばせているだろうか──。あの日自分を打ち負かしたメイド──ヌクインの町を含む周辺一帯の土地を所有する大地主ウィズアルド家の屋敷に仕える彼女達の筋肉に、男は思いを馳せていた。

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