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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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59話「出航」

 打ち上げた玉は夜空に鮮やかな花を咲かせるはずだった。だがしかし、そうはならなかった。間の悪い魔物に衝突して落下してしまったからだ。

 魔物に当たった花火玉は方向を変え、ウィズアルド家が暮らす本屋敷に向かって落下した。花火職人の完璧な作業によって作られた玉は屋敷の中で炸裂した。花火玉の中に詰められた沢山の火薬玉が余す事なく爆発し、そして見るも無残に豪勢な建物を炎上させてしまったのである。炎上を見て、事の一端を担った鳥型の魔物が慌てて撤退したのが不幸中の幸いであった。


「魔物は『俺には沢山の仲間が、ダチがいっからよ! 覚えてろよ! 俺が声を掛ければ百匹から集まるからな! 今度会ったらやってやんぞコラァ!』とか宣って去っていったわ」

「三下の輩かい」

「今となっては、この時にその魔物を叩いていればその後の襲撃を防げていたわけだけれど、屋敷が燃え上がってそれどころではなかったからね……」


 こればかりはしょうがない──。ユーシャ達はメイド達の心情を思いやった。


「全焼って……あのっ、えっと……」


 屋敷が大炎上──エーダは間抜けな魔物が引き起こした大惨事の果てが気になったが、中々言葉を紡げずにいる。惨事の当事者であるメイドは、軽く息を吐き、眉間にシワを寄せて続きを話した。


「結果として、本屋敷の全焼と多少の怪我人は出してしまったけれど奇跡的に死者は出なかったわ」


 ──カフ! あなたは職人さんを安全な場所へ! ナローとワイトも避難誘導をお願い──!

 ──ケイブルは町へ火消しさんを探しに! もしいたら御助力をお願いして──!

 ──チョードリーとスピードアは私とともに屋敷内の捜索と救助を! お水を被って全身を濡らすのを忘れずにね──! 

 ──残りの皆は筒と花火玉を泉に投げ込んで着火しないよう湿らせて頂戴──!


 突如起こった事故にも、メイド長ゴリエットは見事な立ち回りを見せた。十数人いる筋肉を纏うメイド達に迅速に的確に指示を出し、本人は救助の際の崩れゆく屋敷での避難経路の確保を主に担った。

 大多数が屋敷の外にいたおかげか、屋敷内の救助活動も僅かな時間で終了した。パーティーの後片付け担当と夕食の準備に取り掛かっていた料理担当、そして日中に出来ていなかった室内の掃除をしていた数名を無事に救い出し、誰一人として命を失う事態にならずに済んだのであった。

 人命救助は彼女達の行動努力が大きく関与したが、焼失したのが花火玉が直撃した屋敷一棟だけだったのは奇跡的だったと言えるだろう.。

 打上げ花火──令嬢へのサプライズのために発案、実行したのはメイド一同である。最高の一日にするはずが逆に台無しにしてしまったとメイド達は大きくうなだれた。それどころか雇用主の住む場所を自分達が奪ってしまったのだとさえ感じていた。厳しい叱責を覚悟し、ゴリエットはメイド長として皆を代表し、領主に謝罪した。だが──。


「旦那様も奥様も、そして誕生パーティを台無しにされたマジュ様も誰一人私達を責めなかったわ」


 ウィズアルド家の領主はゴリエットと彼女に続いて深々と頭を下げたメイド達の面を上げさせた。何よりも皆の命が無事であった事を喜ぼう──どこまでも領主は寛大であった。大らかな父の血を引く娘も負けず劣らず心が広かった。


「『こんな谷底に落ちたような酷い事もそうそうない。ならばこれからは上がっていく一方でしょう』と逆に私達が励まされてしまったわ」


 家がなくなってしまっても、また建て直せばいい──雇ってくれた一家の優しさが、より申し訳ない気持ちを大きくさせた。そんな中、責任を感じていたメイドの一人が口を開いたのだ。


 ──北の大陸には砂漠に素晴らしいお城が建っていたり、町一つ設計したと云われる優秀な大工がいるという噂を聞いた事がある──。


「それを聞いて、先輩は即座にその大工さんに建築のお願いをしに私が向かいますと申し出たの。でもそれは先輩だけではなくて、なんとメイド全員同行を願い出てしまったのよ。誰も引き下がらなかったので旦那様も困っていたわ。ふふ、やはり皆責任を感じていたのね」


 収拾がつかなくなった場をメイド長のゴリエットが収めた。やはり適切に指示を出し、そして同行するメンバーを選考した。その結果、メイド長ゴリエット、ノーマル型マッチョ・チョードリー、スピード型マッチョ・スピードア、メイド三人に一人娘のマジュを加えて計四人で大工探しの旅に出たというのが今回の経緯であった。


「……? あれ、何でお嬢様まで旅に出たの?」

「何やら『私も旅に出たい』とおっしゃっていたわ」

「暢気か!」


 他人の事を言えるのか──? そんな目線を仲間二人がツッコミを入れた少年に向ける。


「マジュ様は旦那様には自分達にも関わる事だからと責任者として私も同行すると説明していたわ。ふふ、あの方はお優しいからきっと旅に出たいというのは照れ隠しだったのよ」

「え、でもっ、御両親は危険な旅の許可を出しちゃったんですか⁉」

「えぇ。旦那様達も『家が焼けちゃったし、私達も旅行しようか』ってどっか行ったわ」

「一家揃って暢気か!」


 暢気は俺の専売特許だぜ──! ユーシャがそんな事を言うのではないかとフアムは心の中で期待していた。だが、暢気な自覚のない少年はもちろんそんなセリフを吐く事はなかった。フアムはすんとした表情とは裏腹に心の中で落胆した。

 きっと私達メイドを信頼してくださっている──チョードリーはそう言ったが、ウィズアルド家の人間の気性は大らかを大きく超えていた。一人娘の同行の申し出も、責任者のくだりの方が建前に思えてならなかった。負けず劣らず暢気なユーシャはメイドに訊ねた。


「そんでその旅でお嬢様とはぐれちゃったわけか。何ではぐれちゃったの?」

「先程もお話ししたけれど、魔物の大群に襲われた際に、ね。屋敷に現れた魔物が仲間を連れて襲ってきたのよ。マジュお嬢様にお怪我をさせるわけにはいかないと私達が囮になり、マッカチョッカ大陸の西側の港町で落ち合う約束をしてお嬢様に先に逃げていただいたの。そしてそのまま再会する事なく今に至る、という訳なの」

「……魔物の大群に襲われた──」


 そんな事言ってたっけ──? 記憶の定着を拒みがちな自身の脳みそを棚上げにして虚を衝かれた思いの少年をよそに、建物の外──船着き場の方ではがやがやと騒がしくなっていた。どうやら程なくして出航するマッカチョッカ大陸行きの船に待ち侘びた乗船客が乗り込んでいくようだ。フアムがおっとりとした口調でユーシャに声を掛ける。


「ねえ、私達チケット買ってなくない?」

「あっ、やばい! すっかり忘れてた!」

「どっ、どうするの⁉ チケットってまだ買えるかしら⁉」


 慌てふためくユーシャ達とは対照的にメイド二人は落ち着いた口調で声を掛けた。


「私達がこの大陸に来た時も飛び込みでチケットを買って乗船できたから大丈夫なんじゃないかしら?」

「何だったら受付での交渉を私達も協力しましょうか」


 次の便は夕方になる南の大陸への船を逃してはならない──ユーシャ一行は急いで手続きをしに受付所へ向かった。

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